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コロナ危機が日本社会と 医療・社会保障に与える影響と選択 ー二木 立(にき りゅう) [国家医学・帝国医療・看護学]

コロナ危機が日本社会と 医療・社会保障に与える影響と選択 二木 立(にき りゅう)日本福祉大学名誉教授



2021 年2 月19 日開催 医療問題研究会 主催 神奈川県保険医協会


①コロナ危機は「中期的」には日本医療への「弱い」追い風になる、
②コロナで社会は「大きくは」変わらない。
1 コロナが世界と日本社会に与える影響 
○コロナは世界・日本経済に重大な影響を与え、それによるGDPの落ち込みは 2008 年のリーマンショック(世界金融危機)や 2011 年の東日本大震災を上回る。 
 ○しかし「100 年に一度の危機」、「社会が一変(ポストコロナ時代)」は過剰反応。 


14 世紀ペストの致死率は35 ~ 40 %、人口の1/2 ~ 1/3 が死亡→社会変革的ショック。

1918-20 年の「スペイン風邪(インフルエンザ)」の日本の死者39 ~ 45 万人→現在の人口に換算すると89-103 万人!

スペイン風邪後も日本の都市化は変わらずに進んだ
(中川雅之「人口集積と感染症リスク(下)「日本経済新聞」7 月9 日)。
*スペイン風邪は日本でもアメリカでも「忘却された」
(速水融『日本を襲ったスペイン・インフルエンザ』藤原書店,2006,429 頁)。


 コロナによる国内の死者は6,804 人(2 月11 日現在)、最終的にも1 万人前後?



政府(主として中央政府=国家)の役割の復権-新自由主義的改革は頓挫、医療・社会保障費の大幅抑制の見直し。 


○コロナ対策を名目とした「監視国家」化の危険-中国ではコロナ以前から実現し、コロナ対策でそれが加速
:梶谷懐・高口康太『幸福な監視国家・中国』NHK 出版新書,2019 
日本の人口当たり死者数:イタリア・英国・米国の30 分の1 以下だが、アジア13 か国・地域中4 番目に多い:中国の10 倍、台湾の100 倍。
*フィリピン>インドネシア>ミャンマー>日本>韓国>…中国>…台湾(1 月21日)。
日本の人口当たり病床数は世界一多いのに医療崩壊が起こっている??
日本の病床の4 割は精神科・療養病床で、これらは欧米では病院病床に含まれない。
日本の元データ(約89 万床)は「一般病床」で、回復期病床を相当数含む。(看護師1名が入院患者7名を受け持つ)看護病床約 35 万床。
人口千対病床数は2.8 床で大半のヨーロッパ諸国と同水準。
日本の病院の病床当たり職員数が欧米に比べはるかに少ない
『平成 28 年版厚生労働白書』93 頁「日本の病床 100 当たり臨床医師数は 17.1 人(2012年)であり、アメリカ 85.2 人、英国 100.5 人、ドイツ 49.0 人、フランス 48.7 人と比べて大幅に少ない状況にある」
「医療が逼迫しているのは民間病院のせいなのか?」(忽那 賢志医師 Yahoo!japan 1 月 17 日)、
そもそも医療機関で新型コロナを診療するためには「患者を診る」だけでなく「感染対策が適切に行える」必要があります。
新型コロナ診療を行うキャパシティのある民間病院はすでに新型コロナの患者を診ている、というのが私の印象です。
今新型コロナ患者を診ていない民間の医療機関は、感染症専門医もいなければ感染対策の専門家もいない、という施設が多く、こうした民間の医療機関に何のバックアップもないままに「コロナの患者を診ろ」と強制しベッドだけ確保したとしても、適切な治療は行われず、病院内クラスターが発生して患者を増やしてしまう事になりかねません
現在は専門家も他院の指導に回る余裕はありませんし、病院のコロナ患者の導線を確認し、コロナ患者を診療する病棟のゾーニングを行い、診療に当たる職員の個人防護具の着脱のためのトレーニングを行い・・・といった準備は一朝一夕で身につくものでもありません。
「コロナ治療の医師や看護師にインセンティブを払えば医療体制が瞬く間に強化される」という首相への提言が行われたそうですが、単純にお金で解決する問題ではないでしょう。
少なくとも単にお金を配って病床を確保するのではなく、「医療従事者の安全」と「診療の質」の両方が担保された上で民間の医療機関での診療拡充を行うべきと考えます。
○コロナ危機で「医療モデル」批判(cure から care へ)は破綻→「治し、支える医療」(cure & care)へ。 
*この表現の初出は、社会保障制度改革国民会議報告書(2013 年 8 月)。 
私は、医療機関は、公私の区別を問わず、国民の健康を守るために公的役割を果たしている「社会的共通資本」(故宇沢弘文氏)であり、「医療安全保障」の視点からも、医療機関の倒産や機能低下を防ぐために、経営困難に陥っている医療機関全体に対する公的支援が必要と思っている(コロナ危機後の医療・社会保障改革 14 頁)。 
*迫井正深医政局長:「新型コロナ患者の有無にかかわらず、医療機関をつぶさない対応は必要であり、支援策を財政当局と協議しているところだ。/ 8 月 28 日の新型コロナ対策のパッケージにおいても、医療機関の経営支援は明記されており、予備費の活用を含め対応を講じる」(「医政局長就任会見」『社会保険旬報』2020 年 9 月 21 日号:9-11 頁)。 
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パンデミックは資本主義をどう変えるか――健康・経済・自由-発刊日 2021/2 [国家医学・帝国医療・看護学]

パンデミックは資本主義をどう変えるか83025.jpgパンデミックは資本主義をどう変えるか――健康・経済・自由
ロベール・ボワイエ著 山田鋭夫・平野泰朗訳
藤原書店
A5並製 320頁
ISBN-13: 9784865783025
刊行日: 2021/2
内容
コロナ・パンデミックの中、経済は、生命をどう守るのか!?未来の資本主義のあり方を緊急提言!緊急書き下ろし・緊急翻訳出版!!
様々な“危機”に対応してきた資本主義の歴史をたどり、その多様なあり方を分析し提示してきたフランス・レギュラシオン経済学の旗手・ロベール・ボワイエが、新型コロナ・パンデミックに直面し、経済学者として口火を切った!!ロックダウン、外出禁止、休業要請とその補償……感染の渦中にあるパリから、政策決定、不確実性、競争原理、不平等、ユーロ、国際関係などさまざまな視角から目配りしつつ、未来を展望する。
「日本の読者へ」より
多くの政府は、すべての経済活動の停止、経済的損失の膨大化に直面して、政府は巨額な経済活動支援策を決定した。―「いかなる犠牲をはらっても」―かつて欧州中央銀行によるユーロ救済を可能にした合言葉を前例なき規模で繰り返した。こうした諸政策はGDPの低落や雇用の収縮を止めたが、正常状態に復帰させることはできなかった。
 なぜなら、経済的利害関係者だけでなく、移動の自由という民間人からの要請にも応えて、社会的距離をとるという措置が緩和されるや否や、感染はいっそう勢いをましたからである。
 こうして世界経済は、まったく未知の領域に突入した。つまり、封鎖措置の同時性、各国景気局面の同期化、保護主義的対立の拡大、国際システムの分裂リスクを抑えられない国際諸組織の機能不全、富国ならびに貧国における貧困の再来といったことである。
課題の重大さに見合う統治機構の構築なきグローバリゼーションの構造的危機が指示されることになった。
あらゆる資本主義の構図再編は、新型コロナの持続的根絶の可能性にかんして、不確実だとの刻印を押される。
目次
日本の読者へ
序 説 過去が未来をどう制約するかを理解すること
第1章 困惑的な出来事を分析すること
第2章 パンデミック、経済、制度変化
第3章 根本的不確実性の時代
第4章 緊急事態から健康・経済・自由の「トリレンマ」へ
第5章 医療・教育・文化を中心とした発展様式は出現しつつあるのか
第6章 超国籍的プラットフォーム資本主義と国家資本主義――その加速と弁証法
第7章 国際関係は解体に向かうのか
第8章 ユーロは終焉に向かうのか
第9章 危機からの出口――経済・社会・政治を埋めこみなおすこと
結 論 未来は開かれている
補 章 歴史的出来事をリアルタイムで分析することは可能か
訳者あとがき/文献目録/図表一覧
著者紹介】
●ロベール・ボワイエ(Robert BOYER)
1943年生。パリ理工科大学校(エコール・ポリテクニック)卒業。数理経済計画予測研究所(CEPREMAP)および国立科学研究所(CNRS)教授、ならびに社会科学高等研究院(EHESS)研究部長を経て、現在は米州研究所(パリ)エコノミスト。 著書に『レギュラシオン理論』『入門・レギュラシオン』『第二の大転換』『現代「経済学」批判宣言』『世界恐慌』、〈レギュラシオン・コレクション〉『1 危機――資本主義』『2 転換――社会主義』『3 ラポール・サラリアール』『4 国際レジームの再編』(共編著)、『資本主義vs資本主義』『ニュー・エコノミーの研究』『金融資本主義の崩壊』『ユーロ危機』『作られた不平等』『資本主義の政治経済学』(以上いずれも藤原書店)『レギュラシオン』(ミネルヴァ書房)などがある。
【訳者紹介】
●山田鋭夫(やまだ・としお)
1942年生。1969年名古屋大学大学院経済学研究科博士課程単位取得退学。経済学博士。名古屋大学名誉教授。専攻は、理論経済学・現代資本主義論。著書に『さまざまな資本主義』(2008年)『内田義彦の学問』(2020年、以上藤原書店),Contemporary Capitalism and Civil Society, Springer他。訳書にピエール・ブルデュー『住宅市場の社会経済学』(共訳、2006年、藤原書店)、ロベール・ボワイエ『ユーロ危機』(共訳、2013年、藤原書店)他。
●平野泰朗(ひらの・やすろう)
1948年生。1978年名古屋大学大学院経済学研究科博士課程修了。1978~80年、フランス社会科学高等研究院に留学。経済学博士。福岡県立大学名誉教授。専攻は、労働経済学・社会政策。著書に『日本的制度と経済成長』(1996年、藤原書店)他。訳書にパスカル・プチ『低成長下のサービス経済』(1991年、藤原書店)、エマニュエル・トッド『経済幻想』(1999年、藤原書店)他。
*ここに掲載する略歴は本書刊行時のものです
関連参照
コロナ危機が日本社会と 医療・社会保障に与える影響と選択  二木 立(にき りゅう)


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