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沖縄で「隊員戦死・遺体扱い」訓練へ--2023年11月10日~20日 [軍事]

沖縄で「隊員戦死・遺体扱い」訓練へ
11月10~20日の自衛隊最大規模の演習で、有事で戦死した隊員の遺体を取り扱う訓練を県内で計画し、対外的に公表しないまま実施へ。仮埋葬や臨時の遺体安置所の設置を想定している

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沈黙の子どもたちー2019 [軍事]

沈黙の子どもたち  軍はなぜ市民を大量殺害したか

著者 山崎 雅弘 /ヤマザキまさひろ  
出版者 晶文社 ページ数 294p
出版年 2019.6
ISBN 4-7949-7092-3

新潟県立図書館収蔵 /209.7/Y48/

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内容紹介
アウシュヴィッツ、南京、ゲルニカ、沖縄、広島・長崎…。軍による市民の大量殺害はなぜ起きたのか。戦争や紛争による市民の犠牲者をなくすことはできるのか。様々な資料と現地取材をもとに、市民の大量殺害を引き起こす軍事組織の「内在的論理」を明らかにし、悲劇の原因と構造を読み解くノンフィクション。未来を戦争に奪われる子どもたちをこれ以上生み出さないために、様々な資料と現地取材をもとに、市民の大量殺害を引き起こす軍事組織の内在的論理を解明し、悲劇の原因と構造を読み解く。

 

著者
山崎雅弘[ヤマザキまさひろ]  1967年大阪府生まれ。戦史・紛争史研究家。軍事面だけでなく、政治や民族、文化、宗教など、様々な角度から過去の戦争や紛争に光を当て、俯瞰的に分析・概説する記事を、1999年より雑誌『歴史群像』(学研)で連載中。また、同様の手法で現代日本の政治問題を分析する原稿を、新聞、雑誌、ネット媒体に寄稿
 (本データが、
この書籍刊行当時に掲載されていた)


内容紹介

軍人以外の被災者が軍人の死者よりも少なかった以前の戦争とは異なり、軍人よりも多くの市民が直接的・間接的に標的となって命を失う現代型の戦争、第二次世界大戦。この巨大な戦争のあと、新たな戦争のたびに市民の大量死が引き起こされることが常態化。


 割合は、軍人が三割(ニー
万人から二六〇〇万人)に対し、市民が七割(四八〇〇万人から五九〇〇万人)であったと見られている。市民の死者の数字には、ナチスードイツによるユダヤ大の大量虐殺、いわゆる「ホロコースト」の犠牲者もふくまれる。

 そして、無慈悲に殺された市民の中には、たくさんの子どもたちが含まれていた。

 

 本当なら、小さな手にお気に入りの人形やおもちゃを握りしめ、家族や周囲の人たちに愛されながら、はしゃぎ、走り回り、見守る大人を和ませる笑顔を輝かせて遊びに勲中しているはずの子どもたちが、灰色の空の下で不安におびえ、恐怖に震え、あまりに短すぎる人生に突然終止符を打たれてしまう。小さい休が地面に倒れ、二度と動かなくなる。

 

 いまこの瞬間にも、シリアなどの紛争地では、大勢の子ともたちが死の危機に直面し、一日が終わるごとに新たな犠牲者の遺体が収容され、新たな家族の涙が流されている。

それぞれの事例にどんな 「理」が存在したのかを、さまざまな方向から光を当てて探求する。
 日本の軍(またはそれに準じる組織)が将来、戦争や紛争の当事国として、第二次世界大戦時に旧日本軍が行ったのと同じ行動を篠り返さないために、日本の市民は当時の事例から何を学ぶ必要があるのか。
 手頃な「悪者」を特定して糾弾するのではなく、特定の問題行動を引き起こした「合理性」や、その根底にある価値判断の優先順位、つまり 「何を価値あるものと見なし、何をそれよりも下に置くのか」という思考の土台部分まで掘り進まなければ、我々が過去から学ぶべき本当の根源には、おそらくたとり看けない。
 一人一人の市民が、この難しい問題を考える材料として、本書の内容を参考にしていただければ幸いである。

目次 に続く




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沈黙の子どもたちー2019--㈡ [軍事]

沈黙の子どもたち  軍はなぜ市民を大量殺害したか 著者 山崎 雅弘
出版者 晶文社 ページ数 294p 出版年 2019.6 ISBN 4-7949-7092-3

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目次
第1章 ゲルニカ(スペイン)―市街地へのじゅうたん爆撃による市民の大量死

    【市民殺害の情景】
     ゲルニカに対する波状の航空攻撃
     スペイン内戦の勃発とドイツ・イタリア・ソ連の軍事介入
     大量の市民の死者を生み出す「無差別爆撃」時代の幕開け
     ルポ ゲルニカ スペイン
 
第2章 上海・南京(中国)―兵站軽視と疑心暗鬼が生み出した市民の大量死
    【市民殺害の情景】
    軍による市民殺害の具体的事実の記述
    中国人市民の大量殺害が発生するに至った経緯
    中国人市民の大量殺害は軍事行動として正当化できるか
    ルポ 上海・南京 中国
 
第3章 アウシュヴィッツ(ポーランド)―人間の尊厳を否定された市民
    【市民殺害の情景】
    アウシュヴィッツ強制収容所で何が行われたのか 
    アウシュヴィッツ強制収容所の創設と拡張
    ユダヤ人迫害からホロコーストへの道のり
    ホロコーストを実行した側の人間たち
    ルポ アウシュヴィッツ ポーランド
 
第4章 シンガポール(シンガポール)―軍司令部の命令による市民殺害
    【市民殺害の情景】
    日本軍による中国系市民の選別と大量殺害
    日本軍はなぜシンガポールで中国系市民を殺したのか
    山下奉文とフィリピンにおける日本軍の市民大量殺害
    ルポ シンガポール シンガポール
 
第5章 リディツェ(チェコ)―ナチ要人暗殺の報復で行われた市民の大量殺害
    【市民殺害の情景】
    「金髪の野獣」とよばれた男の死とその報復
    ハイドリヒ暗殺計画が立案された背景
    ハイドリヒ暗殺は計画立案者に何をもたらしたか
    ルポ リディツェ チェコ
 
第6章 沖縄(日本)―「国を守る」はずの自国の軍人に殺された市民の大量死
    【市民殺害の情景】
    さまざまな形で行われた日本軍人の県民殺害
    太平洋戦争末期の沖縄戦とそこに巻き込まれた市民
    上海、南京、シンガポール、マニラ、そして沖縄
    ルポ 沖縄 日本
 
第7章 広島・長崎(日本)―歴史上ただ二つの核攻撃による市民の大量死
    【市民殺害の情景】
    広島と長崎を焼き破壊した熱戦と衝撃波
    アメリカはなぜ原子爆弾を開発したのか
    原爆投下が「本土上陸の犠牲者百万人を救った」という伝説
    ルポ 広島・長崎 日本
 
最終章 戦後の反省―ドイツと日本は、市民大量殺害とどう向き合ったか
    ドイツ連邦軍における「抗命権」とは
    いかなる命令であっても拒絶を許さない自衛隊
 
主要参考文献
あとがき

最終章では、ヨーロッパとアジアでの事実上の「第二次大戦の発起国」であったドイツと日本が、戦後の再軍備(日本の場合は自衛隊創設)に際して、これらの反省に基づく法整備を行ったか否かについても光を当てている。
 ドイツの場合、軍大法の中に「非人道的な命令を軍人が拒絶しても罪に問わない」とする「抗命権」を認めているが、自衛隊法には、同種の法的担保がない。第二次世界大戦の悲劇を膜り返さないという覚悟の点て、ドイツと日本では大きな違いが存在する。

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検証 ナチスは「良いこと」もしたのか?--2023 ⑷ [軍事]

検証 ナチスは「良いこと」もしたのか? 【著者】小野寺 拓也  田野 大輔 
岩波書店 岩波ブックレット № 1080 ISBN 978-4002710808
新潟市立図書館収蔵本 亀田館 234/オ
烏賀陽(うがや)弘道氏のツイッター[X]より 虹屋ツルマキが要約(文責は虹屋)
 1933年、ナチスが政権に選挙で就いた理由のひとつは、共産主義への恐怖です。当時はソ連でスターリンの暴政が繰り広げられ粛清、飢饉で数百万人が死んだ。ドイツにも伝わっていた。ナチスと政権の座を争っていたのは共産党であり、人々は「共産主義者よりナチスの方がマシ」という選択に傾いた。
 
そもそも「ドイツ国民は熱狂的にナチスを選んだ」というのは、そういうナチス支持者を写したプロパガンダ映像から来たフレーミング効果にすぎません。当時のドイツ国民は疲弊し切っていた。そしてドイツがスターリン支配下のソ連のように共産主義支配になったらどうしようと怯えていた。
 
もう一つ忘れてはならない歴史のファクターは、当時の世界を大恐慌が覆っていたことです。その劇薬的な処方箋を提示したのは、ソ連の共産主義とナチズム、そしてアメリカのニューディール政策だった。どれも経済の自由放任主義をやめて、経済を国家の統制下に置く点では同じです。
 
スターリンとヒトラー、ルーズベルトが実は経済においては同じことをやったというとびっくりするかもしれません。しかし政府が事業を作って雇用を生み出し、失業者を減らしたという点ではそんなに大差はない。政治サイドの手法が激しく異なるだけです。
現実に、ルーズベルト大統領は今でもアメリカの右翼からはアカ(共産主義者)呼ばわりされています。


A・takosabur(南茂樹@いじめ問題を許さない)@Akashitakosabur
 
だから、ヒトラーがドイツ経済を立て直したら、英国などでは「民主主義よりああいうのがエエのでは」との議論が出て来たし、ヒトラーびいきの新聞人も生まれた。ノースクリフ卿なんかがそうですよね。

本書 「検証 ナチスは「良いこと」もしたのか」 より
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第四章 経済回復はナチスのおかげ?・・・041頁 小野寺と田町の共同
 アウトバーン建設と雇用創出計画
  ①アウトバーン建設の歴史的背景
  ②アウトバーン建設がめざしていたもの
  ③どの程度景気回復に効果的だったのか?
 軍需・戦時経済
  ⑴巨額の負債でまかなわれた軍需経済
  ⑵収奪の経済
   (a)占領地からの収奪
   (b)ユダヤ人からの収奪
   (c)外国人労働者の強制労働
  ⑶「軍備の奇跡」という神話
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検証 ナチスは「良いこと」もしたのか?--2023 ⑶ [軍事]

検証 ナチスは「良いこと」もしたのか? 【著者】小野寺 拓也  田野 大輔 
岩波書店 岩波ブックレット № 1080 ISBN 978-4002710808
新潟市立図書館収蔵本 亀田館 234/オ
目次 へ
 
はじめに・・・002頁 小野寺 拓也 執筆
 ナチスがした「良いこと」?
 「歴史に善悪を持ち込むな」は正しいか?
 〈事実〉〈解釈〉〈意見〉という三つの層
 本書について
 
第一章 ナチズムとは?・・・011頁 小野寺と田町 大輔の共同執筆
 ナチズムを「国民社会主義」と訳すべき理由
 「民族共同体」とは何か?
 ナチズムは「社会主義」か? 
 
第二章 ヒトラーはいかにして権力を握ったのか?・・・021頁 田町
 ヒトラーは民主的に選ばれたのか?
 ナチスの宣伝は効果的だったのか?
 ヒトラーにも優しい心があったのか?
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第三章 ドイツ人は熱狂的にナチ体制を支持していたのか?・・・033頁 小野寺
 ドイツにおける反ユダヤ主義
 「民族共同体」への包摂によって得られる利益
 様々な圧力
 
第四章 経済回復はナチスのおかげ?・・・041頁 小野寺と田町の共同
 アウトバーン建設と雇用創出計画
  ①アウトバーン建設の歴史的背景
  ②アウトバーン建設がめざしていたもの
  ③どの程度景気回復に効果的だったのか?
 軍需・戦時経済
  ⑴巨額の負債でまかなわれた軍需経済
  ⑵収奪の経済
   (a)占領地からの収奪
   (b)ユダヤ人からの収奪
   (c)外国人労働者の強制労働
  ⑶「軍備の奇跡」という神話
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第五章 ナチスは労働者の味方だったのか?・・・060頁 田町
  歓喜力行団(Kraft durch Freude, KdF)
  ①ナチスの発明だったのか?
  ②政策の目的は何だったのか?
  ③社会政策の実態
 
第六章 手厚い家族支援?・・・071頁 小野寺
  ①ナチ家族政策の歴史的背景
  ②ナチ家族政策のめざしたもの
  ③そして子どもは増えたのか?
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第七章 先進的な環境保護政策?・・・082頁 小野寺
  ①ナチ環境保護政策の歴史的背景
  ②ナチ環境保護政策のめざしたもの
  ③ナチ環境保護政策は「成果」を上げたのか?
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第八章 健康帝国ナチス?・・・098頁 小野寺
  ①ナチ健康政策の歴史的背景
  ②ナチ健康政策のめざしたもの
  ③結局のところドイツ人は健康になったのか?
 
おわりに・・・109頁 田町
 ナチスは良いこともした?
 ポリコレへの反発
 専門家の責任
 「ならず者国家」としてのナチ体制
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ブックガイド・・・117.118.119頁



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検証 ナチスは「良いこと」もしたのか?--2023 ⑵ [軍事]

検証 ナチスは「良いこと」もしたのか? 【著者】小野寺 拓也  田野 大輔 
岩波書店 岩波ブックレット № 1080 ISBN 978-4002710808
新潟市立図書館収蔵本 亀田館 234/オ
《事実》《解釈》《意見》の三層 「はじめに」の一部

 歴史学は何らかの形で事実性に立脚しなければいけない。それに反するものは主張の根拠とすることはできない、この点にはほとんどの人か同意するだろう、ここで「事実」ではなく「事実性」という言葉を使ったのは、たとえば一九三三年一月三十日にヒトラーが首相に任命されたという揺るぎない「事実」だけでなく、先ほど述べたような当時の人びとがどう思っていたかという「心性」のような問題も歴史学は扱うからだ。その場合、日記でも手紙でも、裁判記録でも聞き取り調介でも、とにかく検証可能な何らかの形の根拠にもとづいていなければならない。もちろん過去のすべてが記録に残っているわけではないから、推測を迫られることもあるが、そうであっても、すでに明らかになっている事実性に矛盾するような推測は許されない。
 そういう意味で、本書でも後で説明するように、「ヒトラーはアウトバーン建設によって経済を回複させた」という主張は、端的に言って事実に即していないし、「ナチスの制服が格好いいのはヒューゴ・ボスがデザインしたからだ」というしばしば見られる主張も、根拠のあるものと見なすことはできない。ボスが制服を卸していたのは事実だか、デザインしていたという事実は確記されていないからだ(ボスがファッションーブランドになったのは戦後のことで、ナチ時代は制服を卸す縫製工場の一つにすぎなかった)。
 もっとも、こうした《事実》のレベルで片付けられる即題は、実はそれほど多くない歴史学においておそらくもっとも重要な、しかし社会においてしばしば非常に軽視されがちな点が、二番目の《解釈》の層、歴史研究が積み重ねてきた膨大な知見である。
 たとえばナチスの家族政策を例に考えてみよう。ナチ体制下では将来の兵士や労働力を産み育てることか強くもとめられ、出産に対して様々な報奨制度が存在した。結婚に際しては貸付金か与えられ、子どもを一人産むごとに返済額が四分の一ずつ免除された(つまり四人産めば全額免除となった)。全国母親奉什団が母親学校を開催し、主婦・母親としての訓練を施した。全国二万五〇〇〇ヵ所の母親相談所では、母親への助言や情報に加え、乳児の下着や子ども用ベッド、食料品などの現物支給も行われ、一〇〇〇万人以上の母親がそうした支援を受けた。会社内には幼稚園が設けられ、ケースワーカーが生活問題全般の相談に乗った。親衛隊の「生命の泉」では未婚の母への支援も行われた。
 これだけ《事実》を列挙すると、「やっぱりナチスは良いこともしたではないか」と感じる人が多く出てきても不思議ではない。現在の政府によるお粗末な子育て支援よりもはるかに充実しているではないかと、羨ましく思う人もいるかもしれない。事実、「女性に様々な配慮をしていたナチス・ドイツは、子育て大国だったのだ」と主張する本も出版されている。だが歴史研究か取り組んできたのは、こうした家族政策がどのような文脈で、どんな政策とセットで行われたのかという問題だ
 ナチスの家族政策に関して忘れてならないのは、こうした支援策の対象となったのが、①ナチ党にとって政治的に信用でき、②「人種的」に問題がなく、③「遺伝的に健康」で、④「反社会的」でもない人びとだけだったという点である。社会主義者や共産主義者などの政治的敵対者やユダヤ人、障害者や「反社会的分子」とされた人びとは、そこから排除されていた。しかもナチ体制下では、地方保健機関の発行する「婚姻健康証明書」で遺伝的健康が証明できなければ結婚できなかったし、子どもを産まない「繁殖拒否者」には罰金か科されていた。
 さらに障害者に対しては、まずは強制断種(四〇万人)、さらには「安楽死」(三〇万人)という名の殺害か行われた。同性愛者も迫害を受け、五万人に有罪判決が下されている。そのうち強制収容所に送られたのか五〇〇〇~一万五〇〇〇人、死者は三〇〇〇人程度とされる。ナチスの家族政策は、こうした人種主義的な「民族共同体」を構築するための手段の一つだったのだ。さらに言えば、結婚資金貸付制度も当初は女性が仕事を辞めることを給付の前提としていた。ナチスは少なくとも政権初期段階では「反女性解放」を掲げる体制でもあった。
 「目的や文脈などはどうでもいい、良いものは良いのだ」と感じる人も、ひょつとしたらいるかもしれない。たしかに三つ目の層である《意見》は最終的には個人的なものであるから、そのような考えをもつこと自体を止めることはできない。ただしそこでぜひとも知っておいてもらいたいのが、
 ドイツ語の「Tunnelblck」という言葉である、そのまま日本語に訳すと、「トンネル視線」とでもなるだろうか。自分にとって都合の良いところ(この楊合は「ナチスの良いところ」)だけを照らし出し、それ以外が見えなくなっている状態を指す。
 《解釈》という層が非常に重要である理由か、まさにこの点にある。歴史研究の蓄積を無視して、《事実》のレベルから《意見》の層へと飛躍してしまうと、「全体像」や文脈が見えないまま、個別の事象について誤った判断を下す結果となることか多いのである。そうした目的や文脈を含めてもなお「良いこと」と強弁することは可能かもしれないか、現代社会においてそれが共通了解となることはおそらくないだろう。これは一般読者でも研究者でも状況は同じである。一次史料ばかり収集しても関連する研究文献をきちんと読み込んでいなければ、研究者ですら思い違いを免れない。歴史学で卒業論文を執筆する学生が[研究史が何よりも大事だ]と耳にタコができるほど聞かされるのも、基本的には同じ理由による。
 もちろん、歴史研究者も万能ではない。思い違いをすることもあるし、他者の批判を受けてようやく認識の不足に気付くということもある。しかしだからといって、《解釈》の層を飛び越してよいということにはならない。《事実》から《意見》へと飛躍することの危うさは、何度でも指摘しておく必要があるだろう。《意見》をもつことはもちろん自由ではあるが、それはつねに《事実》を踏まえたに上で、《解釈》もある程度はおさえたものでなくてはならない。
 
《事実》《解釈》《意見》の三層構造は、「歴史的思考力」の前提としていよいよ重要になってくるはずである。
目次 へ続く

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検証 ナチスは「良いこと」もしたのか?--2023 ⑴ [軍事]

検証 ナチスは「良いこと」もしたのか?
【著者】小野寺 拓也 オノデラたくや 田野 大輔 タノだいすけ
岩波書店 岩波ブックレット № 1080
(2023/07/05発売)
ISBN 978-4002710808
新潟市立図書館収蔵本 亀田館 234/オ
著者等紹介
小野寺拓也[オノデラたくや]  1975年生まれ。東京外国語大学大学院総合国際学研究院准教授。東京大学大学院人文社会系研究科博士課程修了し博士(文学)、専門はドイツ現代史
田野大輔[タノだいすけ]  1970年生まれ。甲南大学文学部教授。京都大学大学院文学研究科博士後期課程研究指導認定退学。博士(文学)。専門は歴史社会学、ドイツ現代史
(本データはこの書籍に掲載されていたものより)
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本の大筋は、アウトバーン建設や歓喜力行団と言ったナチスが行った「良いこと」とされる政策に関して、新規性、目的の正当性、実効性の3つの観点からの検証です。そして、いずれの政策も戦争前提で政策実施され、上述の観点で低評価を受け、歴史的に低価値である。
 それらの
新規性は、そもそも前政権からの継続か他のヨーロッパ諸国の政策のパクリで、内容的にも到底肯定的に考えられる政策ではないと今の研究では評価されている。
 特に重要なのはこれ。ナチスの全ての政策が、アーリア民族という「民族共同体」構築のために作られたというのが、今のナチス論の主流。この考えは、①ナチ党にとって政治的に信用でき、②「人種的」に問題がなく、③「遺伝的に健康」で、④「反社会的」でもない人びとだけを包摂対象とし、社会主義者や共産主義者などの政治的敵対者やユダヤ人、障害者や同性愛者、子どもを産まない「繁殖拒否者」といった「反社会的分子」とされた人びとは、劣等とみなし徹底的に排除した。
 派生したドイツ民族を一つの身体して捉える「民族体」という考えで、例えば、一人ひとりの健康は個人の問題ではなく、民族全体の問題ということで、遺伝的に悪いものは徹底的に根絶やしにすると政策が執られた。当時のドイツの学者はアルコールは突然変異をもたらす物質と考えて、アルコール中毒患者に対する「断種」。その他の理由を含め法律に基づいて40万人を断種したという。

《事実》《解釈》《意見》の三層 に続く

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超音速兵器の開発競争 [軍事]

防衛省の研究機関、防衛研究所発行の『朝雲』2022年2月24日掲載の防研セミナーより

極超音速兵器の開発競争

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 近年、音速の5倍(マッ(5)を超える極超音速領域で大気圏内を飛び、飛翔中に複雑な機動も可能な新兵器の開発が話題になっている。

 この兵器は、弾道ミサイルやロケットブースターで打ち上げられる無動力の極超音速滑空体(HGV)と、スクラムジェットと呼ばれる特殊なエンジンを搭載した極超音速巡航ミサイル (HCM)に大別される。

 これらの極超音速兵器をめぐっては、後述するように米中露3力国が激しい開発競争を繰り広げている。また、欧州・インドーオーストラリアなどの主要国も研究開発を進めている。

 北朝鮮も、2021年9月に続き、今年2022年1月には2度にわたりHGV・極超音速滑空体とみられる極超音速兵器の試射を行ったと報じられている。

 なぜ、こうした兵器の開発が国際社会で進んでいるのか。

経路予測が困難滑空中の機動も
 その理由として、極超音速兵器が将来の戦闘様相を一変させる「ゲームチェンジャー」になると一般に信じられていることが指摘できる。

 ICBMなどの従来の弾道ミサイルも、弾頭部は極超音速で目標に落下してくるが、その飛翔経路は予測可能であり、宇宙空間を通過中に地上や海上からレーダーで追跡しつつ迎撃することができる。

 しかし、HGV・極超音速滑空体は弾道ミサイルとは異なり、ロケットから切り離された後は宇宙空間に出ず、大気圏内を滑空してくるため飛翔経路が予測できず、レーダーでの探知も遅れてしまう。

  加えて、HGV・極超音速滑空体は滑空中に機動できるので、迎撃ミサイルをかわすことも可能である。

 このため、現在の弾道ミサイル防衛システムではHGVの探知・迎撃は非常に難しいとされる。また、従来の巡航ミサイルは低速のため探知・迎撃が可能であったが、極超音速で突入してくるHCM・極超音速巡航ミサイルに対しては有効な迎撃手段を欠いている現状にある。

 つまり、極超音速兵器は’防御不可能なゲームチェンジャー兵器だというわけである。

 ただし、これに異論もある。HGV・極超音速滑空体が大気圏内を極超音速で長時間飛び続けると、大気との摩擦熟で表面温度は2千度以上にもなり、HGV本体および内部機器が深刻なダメージを受ける。

 また、HGVの周りの空気がイオン化し、発生したプラズマか衛星などからの誘導制御信号を妨書するために、目標への命甲精度が低下する。さらに、極超音速飛翔中に機動を繰り返せば、抗力が増して速度が低下する。

 HCM・極超音速巡航ミサイルについても、スクラムジェットは超音速でエンジン内を通過する高温高圧の空気に燃料を噴射して燃焼させる仕組みであり、安定的に動作させ続けることが難しいという課題がある。

 これらの技術的な課題を克服しない限り、極超音速兵器はゲームチェンジャーにはなり得ないとも指摘されている。
実戦配備の中露 開発競争リード
極超音速兵器をめぐる米中露の競争では、現時点では中露がアメリカを一歩リードしている。

 ロシアは、2019年12月に長距離HGV・極超音速滑空体「アバンガルド」実戦配備したと報じられている。また、1000キロ以上の射程を持つ対艦攻撃用のHCM・極超音速巡航ミサイル「ツィルコン」や、インドと共同でHCM「プラモス2」を開発している。

 中国も、2019年10月の軍事パレードで中距離HGV「東風17」を初公開し、2020年に実戦配備したとされている。

 翌2021年8月には、中国が新たな極超音速兵器の発射実験を行ったことか報じられ、これについて同年10月にマーク・ミリー米統合参謀本部議長がテレビのインタビューで「非常に憂慮している」とコメントした。

 なお、中露とも極超音速兵器に核弾頭を搭載可能としていることから、通常弾頭との両用兵器として開発している模様である。

 これに対し、アメリカは通常弾頭のみの極超音速兵器を開発中であり、核弾頭を搭載する予定は今のところない。

 現在、陸海空軍および国防高等研究計画局(DARPA)がさまざまな開発フロジェクトを立ち上げており、プロトタイプによる発射実験を繰り返し行っている。

 また、アメリカは極超音速兵器を迎撃するための新たなミサイル防衛システムの開発に乗り出している。

 ミサイル防衛庁(MDA)は、新設された宇宙開発庁(SDA)とともに、小型赤外線衛星群を低軌道に配備して宇宙から極超音速兵器を探知・追跡できるシステムの構築を計画中である。MDAはまた、HGVを滑空段階で撃ち落とすための新たな迎撃ミサイルの開発にも取り組んでいる。
リスクが高まる「誤解」の核報復
 先述したように、中露は極超音速兵器の実戦配備を進めている。

 これらの兵器が実際に使用された場合、飛翔経路が予測不可能なことから、その兵器がどの目標に向かっているのかを確定できないため、誤解に基づく核報復の実行などの意図しないエスカレーションのリスクが高まると指摘されている。

 他方で、極超音速兵器の使用およびその脅しに対しては、核兵器のそれと同様に、従来の抑止が効くとの見方もある。

 米中露をはじめとする極超音速兵器開競争が、新たな軍備拡張競争を引き起こしかねないとの懸念も高まっている。

 軍備管理の専門家などからは、2026年まで延長された米露間の新戦略兵器削減条約(新START)の対象範囲に極超音速兵器を加える、あるいは多国間で新たな軍偏管理協定を締結して極超音速兵器の実験を一時停止また諮正するといった提言が出されている。

 また、兵器データの交換、実験の事前通告など、極超音連兵器の開発に係る透明性を高める措置も提言されている。

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ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)によれば、米国防総省がこの極超音連兵器に大きな労力と資金をつぎ込んでいるにもかかわらず、米国には極超音速ミサイルがない。しかし、ロシアと中国にはある。何が問題なのか?WSJは、ロシアの専門家は極超音速兵器の製造で米国が失敗した原因を、米国の開発は加速しているが、この兵器をつくるための「画期的な技術がまだ不足している」「ロシアは50年かかった」という声を伝えている。

 

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朝鮮戦争無差別爆撃の出撃基地・日本-2023 その② [軍事]

朝鮮戦争  無差別爆撃の出撃基地・日本  林 博史【著】

高文研(2023/06発売) サイズ 46判/ページ数 288p/高さ 19cm

ISBN 978‐4874988503

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内容情報

内容説明
米軍の加害の出撃基地・兵站基地となった在日米軍基地の出発点は朝鮮戦争だった!米国の公文書を克明に調査し、東京(横田)・沖縄(嘉手納)から飛び立った爆撃機B29による無差別爆撃と日本の「参戦」の実態を明らかにした労作。
目次
はじめに
なぜいま朝鮮戦争か
米国の侵略や軍事介入に全面協力する日本
Ⅰ 朝鮮戦争の経過と日本の関わり
  南北分断と事実上の内戦
  朝鮮戦争の経過
  日本の関わり
Ⅱ 朝鮮戦争の勃発と国連軍の反撃1950年6月─10月
  1 朝鮮戦争に参戦した米空軍
  2 爆撃機司令部とB29
    B29の派兵と爆撃の開始
    爆撃機司令部の発足と爆撃方針
    爆撃機司令部指揮下のB29による爆撃の開始
    爆撃と軍事目標
  3 戦闘爆撃機による攻撃
    避難民への爆撃
    ナパーム弾による攻撃
    パイロットたちの証言
Ⅲ 中国人民義勇軍の参戦と停戦交渉下の爆撃
  1 中国人民義勇軍の参戦と無差別爆撃の本格化1950年10月─1951年4月
    無差別爆撃の本格化
    ナパーム弾と焼夷弾
    平壌への大爆撃
    原爆使用問題
  2 停戦交渉下の絞殺作戦・集中砲火作戦1951年5月─1952年4月
   「絞殺作戦」の開始
    夜間爆撃への転換一九五一年一〇月以降
    ショランによる爆撃
    生物化学兵器問題
    B29墜落事故
Ⅳ 政治的圧力のための爆撃
  1 破壊による航空圧力の強化1952年5月─1953年7月
    阻止作戦の総括と新作戦の立案
    圧力ポンプ作戦
    政治的圧力のための爆撃
  2 水力発電所の爆撃
    北朝鮮の水力発電施設
    水力発電施設への爆撃
    B29による水力発電施設爆撃
  3 あらゆる建造物を破壊する爆撃
    町や村、集落への爆撃
    自己目的化する建物の破壊
  4 灌漑ダム爆撃1953年5月─6月
    農民や稲作も軍事目標
    洪水を意図した灌漑ダム爆撃
  5 最終盤の航空作戦1953年6月─7月
Ⅴ 総括 朝鮮戦争における爆撃
  1 爆撃の総括
    爆撃の全体概要
    何を爆撃したのか
    徹底して破壊された北朝鮮の町村
    朝鮮戦争の犠牲者数
    出撃基地となった日本・沖縄
    米空軍への日本の支援
    無差別爆撃の根幹にある植民地主義と人種主義
  2 その後
    核出撃基地化する日本
    朝鮮戦争が与えた影響
    おわりにかえて
    巨大米軍基地群の日本
    強国の横暴を防ぐために
参考文献

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朝鮮戦争無差別爆撃の出撃基地・日本-2023 [軍事]

朝鮮戦争  無差別爆撃の出撃基地・日本  林 博史[ハヤシひろふみ]【著】
高文研(2023/06発売) サイズ 46判/ページ数 288p/高さ 19cm
ISBN 978‐4874988503
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出版社内容情報
朝鮮戦争は1950年6月25日、北朝鮮軍が北緯38度線を越えて韓国に侵攻して、1953年7月27日に停戦協定が締結されるまで3年1カ月にわたって行われた戦争です。
今年の7月23日は、朝鮮戦争の停戦協定が結ばれて70周年になります。しかし、70年が経った今も平和条約は締結されておらず戦争状態は依然として続いています。
朝鮮戦争について、著者は以下のように評価しています。

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 朝鮮戦争は日本にきわめて大きな影響を与えた。警察予備隊から保安隊─自衛隊という再軍備がおこなわれ、憲法九条が政治の争点となる。米国は日本を冷戦のために経済的に利用するにとどまらずその軍事的役割を求めるようになる。日本の支配層の平和憲法や戦後民主主義への敵視と米国の冷戦政策が合わさって逆コースが進められ戦後の非軍事化・民主化の改革が突き崩されていった。戦争責任や植民地責任をあいまいにしながら米軍基地を受け入れるサンフランシスコ平和条約と日米安保条約が結ばれ、米軍基地が独立回復後も維持されることになった。日本にいる朝鮮人を敵視し差別する政策が積極的に取られ制度化されたのもこの戦争中だった。
 米国は、朝鮮戦争前は韓国や日本本土に米軍基地を置く構想はなかったので朝鮮戦争がなかったならば、日米安保条約があったかどうかも疑問であるし朝鮮半島の状況はまったく違ったものになっていただろう。ただし沖縄は米軍の軍事支配下に置かれ続けられただろうが、朝鮮戦争があったことによってその軍事負担は強められたと言えるだろう。
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本書は、著者の上記のような問題意識のもとで、日本(特に首都東京)と沖縄の基地からB29が北朝鮮に対して無差別爆撃をおこなった実態を米空軍資料から明らかにし、日本が朝鮮戦争に深く関わっていること、特に非人道的な爆撃の出撃基地であったことを日本社会の共通認識とし、朝鮮半島の平和実現のためへの日本の貢献について考える素材を提供することを目的として執筆されました。
著者は「朝鮮戦争を終わらせ平和を実現することは戦後の日本のあり方を大きく変える可能性を秘めている」「戦争を放棄したはずの戦後日本が加害意識の欠落に無自覚であり続けていること、朝鮮戦争をはじめ米国がおこなう非人道的な戦争行為に加担し続けていること、それどころか侵略戦争や植民地支配を正当化しようとする流れが日本の主流になってしまっている現状を深刻に反省し克服しなければならない」と提言しています。


著者等紹介
林博史[ハヤシひろふみ]
1955年神戸市生まれ。一橋大学大学院社会学研究科博士課程修了(社会学博士)。現在、関東学院大学経済学部教授(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)


目次へ 続く

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