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老人喰い 高齢者を狙う詐欺の正体ー2015年 その⓶ [介護]

老人61K9FELW6PL.jpg老人喰い 高齢者を狙う詐欺の正体 

著者鈴木 大介 /すずき だいすけ 
出版者 筑摩書房
 ちくま新書 番号 1108 ページ数238p
出版年 2015.2 
ISBN 978-4-480-06815-6
新潟市立図書館収蔵 中央ホンポート館1階ほか /368.6


内容紹介
 こうした生まれ育ちの貧困が生み出した犯罪者とも言い切れなかった。親の愛を十分に受けた者もいる。大学教育を受けた者もいた。だがそれでも彼らは、明確な敵対感情を持つて、高齢者に牙を剝く存在となっていた。なぜだろうか ?
 老人喰いの頂点とも言える特殊詐欺犯罪に手を染める若者たちを取材してきて、僕が感じたのは彼らが「夜露の世代」だということだ。彼らと接していると、思い浮かぶのは砂漠の夜だ。想像してほしい。
 彼ら若者たちは、砂漠の中で渇いている。周囲にはすでに枯れたオアシスと、涸れた井戸があるのみ。今後雨が降る気配もなければ、自分たちで新たに井戸を掘るだけの体力も彼らに残されていない。ただただ彼らは、夜露をすすって乾きに耐えている。
だが彼らの横には、水がたっぷりつまった革袋を抱えた者たちがいる。これが、高齢者だ。
  彼ら高齢者は自らの子供や孫には水を与えるかもしれないが、 その他の若者には決して水を与えない。水を「貸し与える」ということもしない。少しの水を分けてやるだけで、彼らは自分たちで井戸を掘り、新たなオアシスをつくるかもしれないのにだ。
 ならばどうなる。渇き切った若者たちは、いずれ血走った目で高齢者の抱える水袋を奪いにかかるだろう。自明の理ではないか。
 大きな誤解を解いておきたい。高齢者を狙う犯罪とは、高齢者が弱者だから、そこにつけ込むというものではない。圧倒的経済弱者である若者たちが、圧倒的経済強者である高齢者に向ける反逆の刃なのだ。
 豊かな高齢者は言うだろう。いくら渇いているといっても、現代の日本は先進国で、食べ物がなくて盗みや横取りをするほどの貧困にはないだろうと。だがそれは、世の中を見誤っているとしか思えない。
現代は、努力をすれば必ず結果が出た高度成長期ではないのだ。彼ら若者は、どれだけ努力をしようとも、将来が安定するという確信が持てない。今日は食パンの耳すら食べられなくても、 頑張ればいつかフルコースを食べる夢のあった世代と、今日は食パンの耳を食べているが、「頑張っても一生食パンの耳しか食べられない」という諦観に満ちた世代。渇きの度合いで言えば、現代の若者は戦後の貧困以上に渇いているかもしれない。
 お役所の統計には出ていないが、現代の大学生と話していて驚くことがある。「卒業したら、在学中の仕送りや学費を親に返す」という学生が、かなりの数でいるのだ。僕自身は 73年生まれの第二次ベビーブーム世代で、苛烈な受験戦争世代で、就職氷河期世代だったが、いま思えばなんと恵まれていたのだろうと思う。少なくとも僕らの世代には「仕送りを親に返す」という発想は、さほど普遍的なものではなかった。
 具体的な数字をというのなら、奨学金を使った学生の、卒業後の困窮も問題だ。奨学金を返せないという理由で裁判を起こされた元奨学生の数は、 04年の訴訟件数 58件に対して、 12年の段階では 6 1 9 3件と、 1 0 0倍超の激増となっている。その失望感、閉塞感は、比較にならない。
 そんな中で、「マイルドヤンキ—」 「ソフトヤンキー」と呼ばれる新たな属性の若者たちにも注目が集まった。これは、高所得やキャリアアップを狙う人生よりも、低所得でも周囲の同世代や親兄弟と支え合う人生に価値を見いだす層のことで、マーケティングアナリストの原田曜平氏 (博報堂 )が提唱したものだが、いわば彼らは「諦観層」だ。
 老人喰いの当事者の若者たちは、このとてつもなく分厚い停滞感、閉塞感の雲を、突き抜けた者たちだった。貧困世帯の出身者もいれば、中央集権社会•都市部集中型社会の中で見捨てられたかにみえる「貧困自治体」に育った者もいたし、大学進学までするも大卒後の就職難に喘いだ者もいた。
  だが共通するのは、彼らが非常に優秀で、異常なほどに高いモチベーションの持ち主だったことだ。閉塞感に飼いならされることも押しっぶされることもなく、抗い続ける者たちだったことだ。血も涙もあった。むしろそうした人間的な情熱を過剰に抱えたタイプだった。
 そして、すでに老人喰いは高度に組織化し、彼らの牙を先鋭化するために教育し、その高いモチベーションで犯罪行為に加担するよう差し向けるシステムが出来上がっている。いわば彼らは、「経済的ゲリラ」。民衆の貧困など素知らぬ顔の貴族階級に刃を向けた中世の民衆と全く同様のルサンチマンを胸に、老人喰いを率先して行う。
 どんな防犯対策を施そうとも、この「階層化社会」がある限り、老人喰いはなくならない。特殊詐欺犯罪がなくなったとしても、彼らは別の手段で高齢者に牙を剝き続けるだけだ。
 また、これは高齢者の判断力の弱さを突いた犯罪でもない。彼らの中には、高齢者を騙して金を奪う完璧なまでのロジックが完成している。いまはまだ判断力も体力も充実している壮年世代も安心はできない。将来的な老人喰いのタ—ゲットとして、 確実にマークされている。
 本書では、その現場に生きる若 者たちの実像を、そのギラついた情熱を、ただただ記そうと思う。

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