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人口の中国史-先史時代から19世紀までー岩波新書 新赤版--(下) [ユーラシア・東]

人口の中国史   先史時代から19世紀まで

上田 信 [ウエダ マコト]    岩波新書 新赤版 1843 出版 2020.8

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終章 現代中国人口史のための序章  下
  貨幣経済が地域社会の隅々にまで浸透した結果、農耕を離れて生きることが可能となり、「謀生」・ボウソン・の路に進む独身男性か増えた。地域社会では間引かれてしまう女児の比率か下がり、成年に達する女性の比率が増えたと推測できる。生まれてくる子どもの数か増え、十八世紀の人口爆発が引き起おこされた。
 人口の急増は一九世紀なかばに叛乱が頻発する要因となった。叛乱か収収束たあと、中国の人口分布は大きく変わっていた。
 以上が本書で述べてきた中国人口史の概略である。
グローバルーステージ
 十九世紀なかば以降の中国史も、「合散離集のサイクル」で整理することがでぎる。
  清朝がアヘン戦争に敗れ、一八四二年に南京条約を結んだことで、東ユーラシア・ステージから新たなステージに入る。グローバル・ステージである
 幾度も列強に敗れたことで、清朝の威信は傷つけられ、中国は分散化する。太平天国や捻軍と対峙するなかで、地方有力官僚が指揮をとる湘軍・淮軍という軍隊が編成された。これらの軍隊を支えるために、各省ごとに財政を機動的に運用する必要か生じた。歴史は清朝統治下の「合」から、各省は財政的に独立傾向を強めた「散」のステップに入る。
  一九一一年の亥革命の結果、各省が清朝から政治的に独立することを宣言した。翌年に皇帝が退位することで、三〇〇〇年以上にわたって続いた王朝史は終わりを告げる。省財政を基盤にして、省を単位とする軍隊に支えられた軍閥が、中国全域に割拠するようになる。各軍閥の背後には、グローバルな帝国主義国家か立つことで、「散」の時期の中国は軍閥乱戦の様相を呈する。
 一九三0年代には、日本の介入か深刻化し、マンチュリアには「満洲国」が傀儡政権として建てられる。モンゴル高原の漠南では、チンギス統原理の権威を帯びたデムチュクドンロブ(徳王)が、自治政府を樹立させようと試みるようになった。
 グローバル・ステージにおける「離」のステップでは、蒋介石ひきいる国民党と、毛沢東ひきいる共産党とのあいだで、国造りの方針の違いから「離」の時代となる。単純化して分離の構図を整理すると
、開発独裁へと続く道と、社会主義へと向かう道とのあいだの対立といことになるだろう。一九三六年に
国民党の統治下で、中国は経済的に最良の状況に到達していた。しかし、その翌年に、日中全面戦争が始まるのである。
 戦後の国共内戦を経て、一九四九年に中華人民共和国の建国が宣言される。その国土は清朝の最盛川の版図と、ほぼ重なる。こうして中国は、共産党のもとに「集」のステップに入る。
しかし建国から約三0年間は、路線対立のために国内は混乱した。
 新たな合散離集サイクルは、訪れるのであろうか。「合」のステップに進むタイミングを、鄧小平の改革開放路線がはじまった一九七八年と、仮にしておこう。将来、時代を画するにもッと適切な出来事が出来するかもしれないので。
 中国文明が生み川した「陰陽」思想になぞらえると、「合」が極まったときにはすでに「散」が兆していることになる。グローバル・ステージ第一サイクルの「散」のステップのときに、日本は歴史のうねりを読み間違えた。中国を侵略したために、日中双方に災厄をもたらしたのである。第ニサイクル「散」のステップに中国がもし進んだ場合、私たちはけっして誤りを繰り返してはならない。
p245
人ロピラミッドの男女比に着目すると、中国社会か抱えている問題の一つが浮き彫りとなるとなる。出産前に胎児の性別判定が可能となった結果、男尊女卑の観念が根強く残る社会のなかでは、女の子となるはずの胎児が中絶される可能性が高かった。将来、この世代が成長して結婚適期にさしかかったとき、男女のアンバランスは大きな社会問題となる。
三〇年ほど前に、「だれが中国を養うのか」という問いかけが発せられたことがある。巨大人口を抱えた中国で、工業化が進み農業人口が減少する。富裕層のあいだで、肉食を中心とする食生活が広がる。このことが穀物の生産量を減らし、家畜用飼料として穀物が消費される。中国は世界中から食糧を輸入し始めると、世界的な食糧危機が起きるというのである。マルサスの人口論が、人類全体の問題として議論されたのである。
 こうした危機感か正しいのか、否か。今後も中国の実像を正しく把握するために、中国人口史に立ち返る必要がある。正しく恐れるためには、正しい知識か求められるのである。

タグ:中国
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