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胃袋の近代―食と人びとの日常史― 2018、 湯澤 規子 (著) [食から見る]

胃袋の近代―食と人びとの日常史― 単行本 – 2018
湯澤 規子 (著)
単行本:四六判 354ページ
出版社: 名古屋大学出版会 (2018/6/26)
ISBN-13: 978-4815809164
発売日: 2018/6/26
胃袋の近代―食と人びとの日常史6.jpg目次
序 章 食と人びと——見えない歴史の構築
1 食と人びとの日常史
2 近代の都市と人口と胃袋——見取り図
3 外で飯食う事——知らぬ火の食事
4 社会問題は胃の問題——罪と胃袋
第1章 一膳飯屋と都市——胃袋からみる近代日本の都市問題
1 十銭玉一つの飯どんぶり
2 舌で書く食堂経済学——石角春之助
3 「天下の台所」の近代台所事情——大阪市の一膳飯屋調査
第2章 食堂にみる人びとの関わり——食をめぐる政治と実践
1 都市労働者問題と民営食堂
2 胃袋に対する行政の関与
3 市営食堂その後
4 「地域」社会事業と実務家のネットワーク
第3章 共同炊事と集団食のはじまり——工場の誕生と衣食住の再編
1 工場食の世界
2 共同炊事のはじまり
3 食と「地域」社会事業
4 共同炊事による胃袋の連帯
5 胃袋と企業・国家・科学
第4章 胃袋の増大と食の産業化——大量生産・大量加工時代の到来
1 食の産業化——大量生産と大量加工
2 漬物と近代
3 工場・女工・漬物・肥料
4 蔬菜栽培の発展と漬物屋の増加
5 軍需と家庭——戦下の漬物樽
第5章 土と食卓のあいだ——食料生産の構造転換と農民・農家・農村
1 農村と都市のあいだ
2 農村の変化と青年たち
3 米と繭と新しい商品作物
4 土と食卓のあいだ——「百姓」から「農家」へ
第6章 台所が担う救済と経済——公設市場・中央卸売市場の整備
1 食の交換と分配
2 胃袋と都市の台所
3 中央卸売市場の誕生——救済政策から経済政策へ
第7章 人びとと社会をつなぐ勝手口——市場経済が生んだ飽食と欠乏
1 勝手口からみる歴史
2 『残食物需給ニ関スル調査』
3 食べものの洪水と空っぽの胃袋
4 食堂の勝手口から地域社会へ
終 章 胃袋からみた日本近代——食と人びとをつなぐ地域の可能性
1 胃袋の孤立化と集団化
2 食と人びとと地域の日常史
3 人びとをめぐって——民衆と他者
4 胃袋の現代へ——日々食べるということ
あとがき
参考文献
図表一覧
索 引
内容紹介
人びとは何をどのように食べて、空腹を満たしてきたのか。一膳飯屋、残飯屋、共同炊事など、都市の雑踏や工場の喧騒のなかで始まった外食の営みを、日々生きるための〈食〉の視点から活写、農村にもおよぶ広範な社会と経済の変化をとらえ、日本近代史を書き換える。


著者略歴

湯澤/規子 ユザワ ノリコ
1974年大阪府生まれ。2003年筑波大学大学院歴史・人類学研究科博士課程単位取得満期退学、博士(文学)。2005年明治大学経営学部専任講師。筑波大学生命環境系准教授(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)


胃袋の近代―食と人びとの日常史sユザワ ノリコ.jpg「人びと」という言葉は、本書に登場し、交錯する、じつに多様で豊かな人生をみずみずしく、かつ躍動的に描くためには欠かせない、本書の底流となる重要な水脈なのである。こうして五感を研ぎ澄ませて知り得たさまざまな事象が徐々に、しかし、くっきりと像を結び始めた時、それがまるでひと続きの物語のように見えてきたことも、私にとってはさらなる驚きであった。この像がほどけてしまいませんように・・・・・・、と祈るような気持ちで夢中で書き留めた内容の全貌が本書
「胃袋」という誰もが持っている身体の一部に着目し、誰もが経験している「食べる」という行為を、歴史を描く視点に据えたからだと思えてならない。その意味で、「胃袋」から、つまり「食べること」から歴史を描くことは、歴史学の一つの可能性と新しい方向性をあわせ持っているといえる。しかし、そうだとするならば、なぜ、これまで胃袋から見た歴史は存在しなかったのだろうか。
食べることは人間にとって、最も重要かつ日々逃れられない性のひとつである。それはいかに飽食の時代になろうとも変わることがない。本書ではそれを注意深く見つめることで、私たちが「生きる」とはどういうことかを考えようとした。そのために、「食べる」というよりは「喰らう」というニュアンスに近い庶民の胃袋をめぐる経験と風景から、人びとの生きる姿と彼らの悲喜こもごもを、世相との関わりのなかで描いてみたつもりである。
それは「食べること」があまりにも当たり前の日常の出来事であるがために、とりたてて記録され、論じられることがほとんどなかっただけでなく、経済活動の中でも生産活動への注目に偏ってきたこれまでの研究のなかでは、生活をめぐる諸事象は歴史化されないまま残されてきたからである。しかし、幸運なことに、近代という時代には、急速に拡大する都市へと集まる労働者たちの胃袋を満たすための集団喫食のシステムや、食料の体系的な生産と流通のしくみが整えられたために、それに関わる史料が各地に残されるようになった。つまり、歴史を描くうえで「食べること」に注目することは重要である、と自覚できさえすれば、史料がおのずと語りだす準備はできていたのである。



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