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ユ-ゴ紛争はなぜ長期化したか [ユーラシア・東西]

810nnavg6ZL.jpgユ-ゴ紛争はなぜ長期化したか 
悲劇を大きくさせた欧米諸国の責任
著者 千田善 /(ちだ・ぜん)  
出版年 1999.4
出版者 勁草書房
ページ数 221,20p 大きさ 20cm
ISBN 4-326-35118-7
県立図書館収蔵
新潟市立図書館収蔵 中央ホンポート館2階 NDC分類 316.8393

内容紹介 冷戦後の不透明な世界、続発する地域紛争…。渾沌たる現実に明解なメスを入れ、国際社会の責任を問う。大国の駆け引きを現在進行形で分析し、現代国際政治の力学を冷徹に説き明かす「生きたテクスト」。
20数万人の死者、300万人の難民・避難民を出したボスニア戦争など、91年からの旧ユーゴスラビア紛争。紛争はどうして長期化して、悲惨な戦争化を防げなかったのはなぜか。現実に明解なメスを入れ、国際社会の責任を問う。
71o+IjvRjGL.jpg目次
第1章 「冷戦後」の地域紛争としてのユーゴ紛争
第2章 ユーゴ紛争に対するヨーロッパの対応の弱点
第3章 ドイツ統一と、ECのクロアチア承認
第4章 紛争を長期化させたアメリカの旧ユーゴ政策
第5章 ユーゴ紛争と国連―平和維持活動の効果と限界
第6章 ボスニアでのNATOの役割
第7章 デイトン和平協定とその後のボスニア
著者紹介
千田善(ちだ・ぜん)
1958年岩手県生まれ。東京大学教育学部卒業。ベオグラード大学政治学部大学院修士課程中退(国際政治専攻)。6年余のベオグラード生活を経て、91年からも2年半、スロベニアを拠点に各地で紛争の現場を取材。旧ユーゴスラビア生活は、のべ10年近くにおよぶ。一橋大学非常勤講師(異文化交流論)や外務省研修所で講師を務める。専門は国際政治・国際社会学。
主な著書に『ユーゴ紛争』(講談社現代新書、1993年)、『ユーゴ紛争はなぜ長期化したか』(勁草書房、1999年)など。訳書に『スロヴェニア』(白水社・文庫クセジュ、2000年)、『クロアチア』(同上、共訳、2000年)などがある。
  
烏賀陽 弘道 @hirougaya  2022年5月11日
ウクライナ戦争を見て「第二次世界大戦以来初めてのヨーロッパでのキリスト教徒同士(白人同士の)戦争です!」などと叫んでいる日本の知ったかぶり識者も、欧米のマスコミもバカだ。1990年代のあの凄惨なユーゴ内戦すら覚えてないのか?セルビア人もクロアチア人もキリスト教徒だ。
【セルビア人もギリシャ正教の流れを汲むセルビア正教、、クロアチア人もローマ・カソリック】。
ウクライナ戦争を「第二次世界大戦後初めての独立国同士の戦争」とか言う連中も無知すぎる。ユーゴ内戦はクロアチアとスロベニアの旧ユーゴからの離脱・独立で始まった。この2カ国はドイツが真っ先に承認、引きずられるようにECも承認した。ユーゴ内戦は国際法的には独立国同士の戦争である。
この性急すぎるクロアチアとスロベニアの国家承認が旧ユーゴの分裂と解体の引き金を引いた。それを押し戻そうとする新ユーゴの戦争、それぞれの分裂国とその国家内国家との間の悪夢のような殺戮合戦が「旧ユーゴ内戦」の実体である。
フランスはセルビア人勢力を支援しドイツはクロアチア人勢力を支援した。アメリカは右往左往。こうした拙劣なヨーロッパやアメリカの介入が旧ユーゴ内戦を地獄化し長期化させた実態は、ウクライナ戦争によく似ている。この経緯は千田善氏の著書に詳しい。
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イスラームの東・中華の西 = [ユーラシア・東西]

71sefw59AmL.jpgイスラームの東・中華の西 =
The history of Central Asia between Islamdom and China from the seventh to the eighth century
: 七~八世紀の中央アジアを巡って
著者 稲葉穣 著
出版社 臨川書店 京大人文研東方学叢書 ; 13
出版年月日等 2022.3
大きさ、容量等 250,15p ; 20cm
ISBN-13 ‏ : ‎ 978-4653045236
玄奘の出立から慧超の旅を経て、悟空の帰京まで――
その勢力を西へ拡大した唐と、東へ伸長したアラブ・ムスリム。最新の考古学、貨幣学、言語学史料の研究成果を手がかりに、7-8世紀中央アジアにおける東西ユーラシアの衝突・交流・融合の歴史を描き出す。舞台はパミールの西、境界を越えて旅した者達の足跡を追う!
【目 次】
プロローグ―玄奘の出立―

第一部 七世紀中葉
第一章 六六一年 西域十六都督府
一 アフガニスタンという場所 / 二 西方に関する漢籍情報 / 三 唐の西域支配体制の再編
第二章 六六六年 東部アフガニスタンのハラジュの王国
一 「イランのフン」の活動 / 二 突厥勢力の登場 / 三 ハラジュ族 / 四 カーブル王フロム・ケサル / 五 その後のハラジュ族
インターミッション―慧超の旅―
一 パミール以東突厥のその後 / 二 パミール以西アラブ・ムスリムの中央アジア征服 / 三 慧超『往五天竺国伝』
第二部 八世紀中葉
第三章 七五一年 タラス河畔の戦いと悟空の旅
一 アッバース革命 / 二 唐と吐蕃 / 三 タラス河畔の戦い / 四 悟空の旅
第四章 七五七年 安史の乱時に入唐した大食
一 安史の乱 / 二 アッバース朝東方領域 / 三 アッバース革命の後 / 四 難民と傭兵

エピローグ―悟空の帰還―
もう少し学びたい人のために―参考文献解題

あとがき / 図版出典一覧 / 索引

著者等紹介
稲葉穣[イナバみのる]
1961年新潟県生まれ。京都大学大学院文学研究科博士後期課程指導認定。京都大学人文科学研究所教授、同研究所長。専攻は中央アジア史・東西交渉史(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)

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CNNニュース・・ロシア産天然ガスの欧州顧客、プーチン氏の支払い条件受け入れる動き [ユーラシア・東西]

ロシア産天然ガスの欧州顧客、プーチン氏の支払い条件受け入れる動き
2022.04.29 
ロシアの天然ガス02.jpg
CNN Business  ロシアから天然ガスを輸入する欧州の顧客の中には、今週ポーランドとブルガリアが被ったロシア政府による天然ガス供給停止のリスクを冒さず、ロシアの新しい支払い条件を受け入れる準備を進めているところがある
ドイツのウニパー社、オーストリアのOMV AG(オーエムファウ アーゲー)が「現在、欧州連合(EU)の制裁ルールに沿った解決策に取り組んでいる」CNN記事と出ている。
ロシアのプーチン大統領は先月、「非友好的」な国々は契約書に記載されたユーロやドルではなく、ルーブルで支払わなければならないと述べた。買い手はユーロやドルをロシアのエネルギー大手ガスプロム傘下のガスプロムバンクの口座に入金し、ガスプロムバンクがその資金をルーブルに交換して第二の口座に移し、そこからロシアに支払いを行うことができる。
「ルーブルへの交換プロセスには制裁を受けた組織が関与している可能性があり、それは買い手・欧州の顧客にはわからないかもしれない」それで「具体的な支払い方法について契約相手・ガスプロムと協議中であり、ドイツ政府とも緊密に連携している」新しい支払い方法の導入には時間がかかりそうだ。
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タグ:ロシア
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ロシアーチェチェン独立運動 図書館収蔵本 [ユーラシア・東西]

41Ze+DgYGML.jpgプ-チン政権の闇 
副タイトル1チェチェン戦争/独裁/要人暗殺
著者1林克明 /著  ハヤシかつあき
出版年2007.9
出版者高文研
ページ数158p
大きさ19cm
ISBN978-4-87498-390-4
県立図書館収蔵本NDC分類(9版)312.38
内容紹介邪魔者は消せ‐。政府・軍・警察・官僚の不正を暴こうとする人物が消えていく。批判者が次つぎに暗殺されるロシアの内実を個性派ジャ-ナリストが徹底ウォッチング
5159S194WCL.jpgチェチェンで何が起こっているのか
著者名1林 克明 /ハヤシかつあき  
著者名2大富 亮 /オオトミあきら  
出版者高文研
出版年2004.3
ページ数254p
大きさ19cm
新潟市立図書館収蔵本白根館NDC分類(9版)302.298
ISBN4-87498-320-0
内容紹介カスピ海と黒海に挟まれた広さ岩手県ほどのチェチェン共和国。大国ロシアはなぜここに侵略し、チェチェン民族の抵抗はなぜ続くのか。厳戒のチェチェン潜入ルポとウォッチャーの考察による、チェチェン問題理解のための入門書。
チェチェン屈せざる人びと-51GN64DAAJL.jpgチェチェン屈せざる人びと
シリーズ名1岩波フォト・ドキュメンタリー世界の戦場から
著者名1林 克明 /著  
出版者岩波書店
出版年2004.4
ページ数77p
大きさ16×22cm
新潟市立図書館収蔵本中央ホンポート館NDC分類(9版)302.298
ISBN4-00-026966-6
内容紹介ロシア軍の圧倒的戦力による掃討作戦にさらされてきた抵抗の民。独立を目指す不屈の精神、共同体のやさしさを通し、素顔に迫る。
41YQHPD8AXL.jpg カフカスの小さな国
副書名チェチェン独立運動始末
著者名1林 克明 /著  
出版者小学館
出版年1997.5
ページ数267p
大きさ20cm
賞の名称小学館ノンフィクション大賞優秀賞
賞の回次第3回
新潟市立図書館収蔵豊栄館NDC分類(9版)916
ISBN4-09-389521-X
内容紹介人口80万の小国チェチェンはいかにして大国ロシアの侵攻をはねかえしたのか。自らの「独立と誇り」をかけたチェチェン戦士たちの1年8か月にわたる戦いに極限まで接近したノンフィクション。

タグ:ロシア
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「帝国」ロシアの地政学---⑨ー旧ソ連域内のロシアの立場 [ユーラシア・東西]

「帝国」ロシアの地政学  「勢力圏」で読むユーラシア戦略
著者  小泉 悠   コイズミゆう
出版年 2019.7 出版者 東京堂出版 ISBN 978-4-490-21013-2
新潟市立図書館収蔵 NDC分類(9版) 319.38
著者紹介  1982年千葉県生まれ。早稲田大学大学院政治学研究科修士課程修了(政治学修士)。東京大学先端科学技術研究センター特任助教。専門はロシアの安全保障政策、軍事政策等。
第2章 1 主権  復活した「ロシアの脅威」 ゼロサム的主権説
 以上のような理解に基づくならば、ロシア的用語法における 「主権国家」(ここでは一般的な用語法と区別してカギカッコを付す)とは、「大国」に限りなく近い概念であると言えよう。やや古めかしい言葉を用いるならば「強国」とか 「列強」ということにもなろうが、これらの言葉はいずれもパワーと結びついている。
 サンフランシスコ州立大学のロシア専門家であるツィガンコフによると、ロシアにおける「大国」とは自らの力によって他国とのパワーバランスを維持し続けられる国であると歴史的に理解されてきた。したがって、バランスが不利に傾けば大国=「主権国家」の地位は失われ、好転すればその地位はより確固たるものとなる。ここでは、主権とは国家間のパワーバランスを反映してゼロサム的に増減するものと理解されているのである。
 これに関連して、サンクトペテルブルグ国立大学のボグダノフは、主権とパワーの関係性をアナーキー(無秩序)とヒエラルキー(階層的秩序)という観点から説明している。ボグダノフの整理によれば、アナーキー状態においてはすべての国家が主権を持ち、自分の安全は自分で確保するという自助(self help)の世界が出現する。しかし、アナーキーの世界が出現する。しかし、アナーキーそれ自体は安定的なものではなく、国家間に存在するパワーバランスに応じてヒエラルキーへと変質する。要は、すべてのプレイヤーが平等な初期状態が、時間の経過につれて強者優位の状態へと移行していくということだ。そして、こうしたヒエラルキーの下では下位国の主権が上位国に制限されることになる。
 さらに、この考え方を敷行すれば、主権の偏在状況はパワーバランスに応じて変動することが想定されよう。主権がパワーに紐づいたものであるならば、パワーバランスの変動はそのまま主権の偏在状況の変化に直結するためである。
 このような主権理解は、プーチン大統領の重要演説においても度々観察される。たとえばウクライナ危機勃発後に開催されたロシア政府後援の有識者会議「ヴァルダイ」において、「世界で唯一の権力の中心」(ここでは米国が念頭に置かれている)に対する忠誠度が国家の正統性を決めるようになったとして、国家主権が「相対化」されていると述べたことはその好例であろう。パワーバランスが国家の主権を規定するとすれば、冷戦後の世界において圧倒的な政治・経済・軍事的優位に立つ米国はそれだけ他国の主権を制限し、その分を自国に集中させることができる、ということになるためだ。
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ロシアが「一極支配」と呼ぶ、主権の集中状態である。一方、ソ連崩壊後に深刻な政治・経済的混乱に陥り、国力(パワー)の低下に見舞われたロシアにしてみれば、冷戦後の状況は「主権国家」としての地位に対する危機であったということになる。
 他方、2000年代の国際的なエネルギー価格の高騰によってロシアの国力が回復すると、ロシアは米国中心の「一極世界」に変化が生じたとの認識を示すようになった。たとえば2009年に公表された「2020年までのロシア連邦国家安全保障戦略」では「ロシアはソ連崩壊後のシステム的な危機を克服した」ことが高らかに宣言され、クライナ危機後の2015年に公表された現行バージョンの「ロシア連邦国家安全保障戦略」では、ロシアが「主権、独立、国家的・地域的な領土の一体性、在外同胞の権利保護を行う能力を実証した」との情勢認識が打ち出された。さらに、中国、インド、ブラジルといった新興大国が勃興する一方、米国経済がリーマン・ショツクによって弱体化したとの認識の下に「一極世界」的秩序は後退し、「多極世界」への移行が始まりつつあると、これらの文書は述べている。
続く

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「帝国」ロシアの地政学---⑧ー[内部]としての旧ソ連諸国 [ユーラシア・東西]

「帝国」ロシアの地政学  「勢力圏」で読むユーラシア戦略
著者  小泉 悠   コイズミゆう
出版年 2019.7 出版者 東京堂出版 ISBN 978-4-490-21013-2
新潟市立図書館収蔵 NDC分類(9版) 319.38
著者紹介  1982年千葉県生まれ。早稲田大学大学院政治学研究科修士課程修了(政治学修士)。東京大学先端科学技術研究センター特任助教。専門はロシアの安全保障政策、軍事政策等。
第2章 1 主権 ロシア的用語法、 復活した「ロシアの脅威」
図2はソ連崩壊後にロシアが軍事プレゼンスを展開させている地域や軍事介入を行った地域を地図上にプロットしたものだが、シリアと北方領土を除けば、ロシアの介入が旧ソ連諸国に集中していることが見て取れよう。
参同できるかどうは別として、そこには何らかのロシアなりの論理が存在している筈である。
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 ロンドン大学キングス・カレッジのロシア専門家であるデヤーモンドは、ロシアの態度が旧ソ連国境の内部と外部で正反対になるという興味深い傾向を指摘している。
 旧ソ連域外におけるロシアの振る舞いは、古典的な国家主権を基礎としたウェストファリア的秩序そのものである。たとえばロシアは諸国家間の法的平等や内政不干渉、領土的一体性の尊重といった諸原則を擁護する
一方、人道的理由に基づいて国家主権が制限されうるとした冷戦後の「保護する責任(R2P:Responsibility to Protect)論には強硬な反発を示してきた。NATOによるユーゴスラヴィアヘの介入や、2003年のイラク戦争においてロシアが示した反発はその好例である
(一方、アフカニスタンヘの介入については、同時多発テロを受けた米国の自衛権の範囲内であるとし、ロシアは積極的な協力姿勢を示した)。また、ロシアはシリアに対する米国の軍事介入に対しても同様の反発を示す一方、主権を有するアサド政権から要請を受けたロシアの介入は法的に正統なのだという立場を示し続けている。ロシアの行動に賛否はあろうが、古典的な秩序という点に照らすならば、そこに一定の筋が通っていることは否定できない。
 ところが、旧ソ連域内においては、ロシアの立場は真逆になる。  
続く

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「帝国」ロシアの地政学---⑦ー「大国志向」へ [ユーラシア・東西]

「帝国」ロシアの地政学  「勢力圏」で読むユーラシア戦略
著者  小泉 悠   コイズミゆう
出版年 2019.7 出版者 東京堂出版 ISBN 978-4-490-21013-2
新潟市立図書館収蔵 NDC分類(9版) 319.38
著者紹介  1982年千葉県生まれ。早稲田大学大学院政治学研究科修士課程修了(政治学修士)。東京大学先端科学技術研究センター特任助教。専門はロシアの安全保障政策、軍事政策等。
第1章-⒉ワイマール・ロシア-・「大国志向」へ
 最後の大国志向は、帝国志向のやや現実的な変種と呼ぶべきものである。
 大国志向的国家観においては、ロシアが旧ソ連諸国を帝国的秩序の下に直接統治することまでは想定しない。その一方で、旧ソ連圈で生起する事象に関してロシアが強い影響力を発揮できる地位を持つべきであるという点では、大国志向は帝国志向との共通性を有する。
したがって、旧ソ連諸国は口シアにとっての勢力圏(この概念については後述する)であり、NATOのような外部勢力が旧ソ連諸国に拡大してくることも阻止されなければならない、ということになる。トールの整理によれば、このような考え方に基づく大国主義者の筆頭がプーチン大統領であり、それゆえに現在のロシアにおける対外政策の基調となっているという。
 だが、帝国のように直接統治を目指さないのだとすれば、大国志向において想定されるロシアの勢力圏とはいかなるものであるのか。次章では、 第2章 「主権」と「勢力圏」―ロシアの秩序観 この点について考えてみたい。
第2章 1 主権 ロシア的用語法、 復活した「ロシアの脅威」

2017年12月の米「国家安全保障戦略」(NSS)が、「米国のパワー、影響力および利益に挑戦」する国として中露を位置付けたことに代表されるように、ロシアが既存の秩序に対する現状変更勢力であるという見方は昨今、ある程度のコンセンサスを得つつあるようだ。その引き金となっだのが、「はじめに」でも触れたロシアのウクライナ介入であったことは論を俟たないだろう。この介入において、ロシアはウクライナ領クリミア半島を強制的に併合したばかりか、ウクライナ南東部のドンバス地方にも民兵を侵入させ、依然として戦闘が続いている(ウクライナ紛争については第4章を参照)。これに続くシリアヘの軍事介入(第5章)や、2016年の米国大統領選をはじめとする西側諸国の選挙に対する介入も、西側諸国によるロシアヘの懸念をさらに増幅させた。

2019年3月に公表されたNATO事務総長の2018年度年次報告書が、・・・こうしたロシアに対する認識の復活を端的に示すものと言えるだろう。
 [内部]としての旧ソ連諸国  へ続く

タグ:ロシア
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「帝国」ロシアの地政学---⑥ー「帝国志向」の夢想 [ユーラシア・東西]

「帝国」ロシアの地政学  「勢力圏」で読むユーラシア戦略
著者  小泉 悠   コイズミゆう
出版年 2019.7 出版者 東京堂出版 ISBN 978-4-490-21013-2
新潟市立図書館収蔵 NDC分類(9版) 319.38
著者紹介  1982年千葉県生まれ。早稲田大学大学院政治学研究科修士課程修了(政治学修士)。東京大学先端科学技術研究センター特任助教。専門はロシアの安全保障政策、軍事政策等。
第1章-⒉ワイマール・ロシア-・「帝国志向」の夢想
一方、トールのいう帝国志向の国家観は、ジリノフスキー(2019年・現自由民主党党首)、ロゴージン(2019年・現国営宇宙公社総裁、元副首相)、ルシコフ(元モスクワ市長)といった民族主義的政治家や、哲学者のドゥーギン、作家のソルジェニーツィンなどの知識人が唱えたものであり、ソ連崩壊の結果に対して極めて否定的な姿勢を示すのが特徴である(ソルジェニーツィンの思想については第4章で改めて触れる)。要は、旧ソ連空間がロシアのものでなくなったことが大変気に入らないのだ。また、こうした帝国志向の国家観においては、旧ソ連の新興独立国に取り残されたロシア系住民やロシア語話者、さらにはウクライナ人やべラルーシ人といったスラヴ系諸民族は「ロシアの民」とひと括りにされ、ロシアの主権はこうしたエスニック集団の広がりに合わせて適用されるべきであるとされる。
口シア国際法思想の専門家であるメルクソーによれば、国際的に承認された国境ではなくエスニック集団を根拠として旧ソ連諸国に対する「歴史的主権」を主張する考え方は、ロシアの国際法理解にも一部見られる。
 ここに、第1節で紹介した大陸地政学との類似性を見出すことはさほど難しいことではあるまい。コンサルタント企業 「ユーラシア・グループ」部長で地政学に関する著作も多いカプランが端的に要約しているように、「地政学は人間の分断が地理に及ぼす影響のこと」なのであり、国境とエスニック集団の不一致が地政学的思想に結びつくという現象はさほど珍しいものではない。トールが、国境とエスニック集団の分布が一致しなくなったロシアを、第一次世界大戦後のドイツになぞらえて「ワイマール・ロシア」と呼んだのは、このような類似性に着目したものである。
 歴史的に見ても、ロシアは常に大陸地政学の影響を受けてきた。欧州とアジアにまたがる巨大な国土や、厳しい自然環境などロシア固有の地理的環境、あるいはロシアが救世主となって周辺の諸民族に調和をもたらすのだというメシア主義など、ロシアの地政学思想には独特の点もあるが、国境線ではなくエスニックな集団を国家の範囲とみなし、それが集団の活力に合わせて伸縮するといった考え方をとる点では、口シアの地政学思想は大陸地政学のそれと極めて似通っている。
冷戦後、ロシアという国家のあり方に関して様々な議論が浮上する中で、帝国志向の代表的な思想家となったアレクサンドル・ドゥーギンが、大陸地政学やロシア地政学の研究家として出発したことは偶然ではないだろう。
 この意味において、帝国志向とは、ソ連崩壊後に生じた 「地政学的悲劇」の処方箋を大陸地政学に求めたものと結論付けられるかもしれない。
 実際、旧ソ連諸国を訪れてみると、ロシア人がそこに「帝国」を見出すことは理解できないではない。空港を出て街中に入ると、たしかに人々の顔つきはやや変わり、看板や標識の言語もその国のものとなる。だが、ホテルやレストランではロシア語が通じるし、街並みにもソ連時代の面影が色濃く残るところが多い。そこがロシアでないことは間違いないのだが、ロシアではないのかと言われるとやや不安を覚えるような、奇妙な感覚だ。保守派や愛国主義者であれば、そこがロシアと全く関係のない国になったのだと言い切ることは余計に面白くないだろう。民族・文化・言語・宗教などがより似通ったウクライナやべラルーシであればなおさらである (この点については第4章で改めて述べる)。
 ただし、トールとメルクソーも断っているように、ロシアの対外政策や国際法理解においてもここまで極端な考え方が公式に主流となったわけではない。以上で述べたのはあくまでもセンチメントの問題であって、いかにロシアの面影があるからと言っでも、旧ソ連諸国が法的にはれっきとした外国となっていることはもはや否定のしようがない事実である。ドゥーギンがプーチン大統領のブレーンであるかのように言われることもあるが、これはプーチン大統領の対外政策にドゥーギン的な帝国志向との共通性が見られることによる一種の神話であると考えたほうがよい。
 また、実際の能力から考えても、ソ連崩壊後のロシアが旧ソ連諸国をコントロール下に置くことは不可能であった。国力が衰え、共産主義の総本山としてのイデオロギー的求心力も失ったロシアには、「帝国」として振る舞いうる余地は残されていなかったのである。そもそも大陸地政学が発達しだのは勃興期のドイツにおいでであり、衰退の只中にあった1990年代のロシアにとっては現実的な処方箋であったとに言えない。
続く

タグ:ロシア
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「帝国」ロシアの地政学---⑤ [ユーラシア・東西]

「帝国」ロシアの地政学  「勢力圏」で読むユーラシア戦略
著者  小泉 悠   コイズミゆう
出版年 2019.7 出版者 東京堂出版 ISBN 978-4-490-21013-2
新潟市立図書館収蔵 NDC分類(9版) 319.38
著者紹介  1982年千葉県生まれ。早稲田大学大学院政治学研究科修士課程修了(政治学修士)。東京大学先端科学技術研究センター特任助教。専門はロシアの安全保障政策、軍事政策等。
第1章-⒉ワイマール・ロシア-・[西欧志向]の挫折
 では、アイデンティティと癒着した地政学とは具体的にどのようなものだろうか。米国の力-ター政権で安全保障担当大統領補佐官を務めたズビグネフ・ブレジンスキ-は、この点について次のように述べている。
「(前略)ロシアでは(中略)主要国のぽとんどでは提起されることすらない疑問をめぐる議論が、公の場でも私的な場でも沸騰している。ロシアとはなにか、ロシアとはどの範囲をさすのか、ロシア人とはなにを意味するのかが議論されているのである。
 この問いは、議論のためのものというにはとどまらない。この問いにどう答えるかで、地政上の政策が変わってくるのだ。ロシアはロシア民族だけからなる民族国家になるべきなのか、それとも、イギリスがイングランドだけではないように、ロシアもロシア民族以外も含めた帝国国家になるべきなのか。ウクライナの独立は一時的な逸脱だとみるべさなのか(そう感じているロシア人が多い)。ロシア人であるためには、ロシア民族(「ルスキイ」)でなければならないのか、それとも、民族の上ではロシア人でなくても、政治的にロシア人であることができるのか(後略)」
 つまり、「ロシア」の範囲を「ロシア的なるもの」の広がりに重ね合わせるのか、「非ロシア的なもの」をも含むのかによって、ロシアの国家像は大きく異なったものとならざるを得ない。また、前述のように「ロシア的なるもの」は新たに生じた国境にまたかって存在しているのだから、国境内の「ロシア的なるもの」だけを「ロシア」の範囲と考えるのか、国境など無視して「ロシア的なるもの」はすべて「ロシア」なのだと考えるのかという点でも、描かれる国家像はまた違ってくるだろう。
 さらに、これはロシア一国の問題に留まらず、周辺諸国との関係にも直接影響してくる問題である。「ロシア」の範囲自体に議論が存在するということは、周辺諸国との境界をどこに引くのか、あるいは「周辺諸国」なるものが独立した主体として存在するのか否かなどが必然的に議題とされなければならなくなるためだ。
 ヴァージニア工科大学教授としてロシアと旧ソ連諸国の関係を研究してきたトールは、このようなアイデンティティと地政学の癒着によって生じた国家像を、西欧志向、帝国志向、大国志向の三つに大きく類型化して分類した。
 第一の西欧志向は、初期のエリツィン政権期においてコズィレフ外相らが推進した西側協調路線に顕著である。ここでは、米国を中心とする西側諸国の価値や制度への統合を志向しつつ、ソ連崩壊によって生じた新たな国境を尊重し、旧ソ連諸国を独立した主権国家として扱う傾向が認められる。つまり、近代国民国家システムの基礎となったウェストファリア的秩序が旧ソ連内外の別なく適用されることになる。
 だが、西欧志向の対外政策は短期間で放棄された。ソ連崩壊の前後、ロシアはワルシャワ条約機構の解体、在欧ロシア軍の撤退などによって西側との軍事的対決姿勢を放棄したが、対ソ同盟であったNATOはソ連崩壊後も解体されるどころか東欧社会主義国を飲み込み、旧ユーゴスラウィアではロシアの意見に耳を傾けることなく介入が行われた。この結果、西欧への統合を志向する限り、ロシアはその後を追う格下のパートナーとしかみなされない、という不満がロシアには磨積していったのである。
 一つの画期とみなされるのは、西欧志向派の代表格とみなされていたコズィレフ外相が1992年12月に行った「転向」演説であろう。ここでコズィレフは次のように述べている。
 「ロシアは外交政策の概念を修正せねばなりません……依然としてヨーロッパヘの仲間入りをすることには重点を置いています。しかし、我々の伝統というものがかなりの程度(主にというわけではないにせよ)アジアに基礎を置いており、これがためにヨーロッパとの和解には限度があるということに、我々は今やはっきりと気付いているのです……旧ソ連空間(中略)はポスト帝国の空間なのであって、この中でロシアは、軍事力や経済力まで含むあらゆる可能な手段を用いて自らの利益を守らねばならなくなるでしょう」
コズィレフの演説は、旧ソ連諸国との地政学的な関わりがロシアのアイデンティティをめぐる問題そのものであること、しかもそれが単純な西欧志向では割り切れないものであったことを明瞭に示していた。
また、ロシア軍事の研究家として知られる英エディンバラ大学教授のエリクソンは、1993年に概要版だけが公表されたロシア初の「軍事ドクトリン」が、極めて不完全ながら地政学的アプローチに基づくものであったことをロシアの軍事思想に関する研究から明らかにしており、1990年代初頭には早くも西欧志向のアプローチが求心力を失っていたことが窺われよう。
 他方、前述のブレジンスキーに言わせれば、西欧派はその見通しの甘さゆえに最初から挫折する運命を背負っていた。当時の荒廃したロシアが米国と対等のパートナーになれる筈は最初からなかった上に、彼らは、自分たちがかつでの東欧衛星諸国からどれほど恨まれているかを理解できていなかったからだ(この点はポーランドにルーツを持つブレジンスキーらしい視点と言える)。それゆえに、「全体としてみるなら、ロシアの失望も、西欧派の後退も、おそらくは避けられなかっただろう」とブレジンスキーは結論付けている。
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我々の伝統というものがかなりの程度(主にというわけではないにせよ)アジアに基礎を置いており、これがためにヨーロッパとの和解には限度があるの考えは、1920年代の「ユーラシア主義」の復活だろう
続く

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「帝国」ロシアの地政学---④ [ユーラシア・東西]

「帝国」ロシアの地政学  「勢力圏」で読むユーラシア戦略
著者  小泉 悠   コイズミゆう
出版年 2019.7 出版者 東京堂出版 ISBN 978-4-490-21013-2
新潟市立図書館収蔵 NDC分類(9版) 319.38
著者紹介  1982年千葉県生まれ。早稲田大学大学院政治学研究科修士課程修了(政治学修士)。東京大学先端科学技術研究センター特任助教。専門はロシアの安全保障政策、軍事政策等。
第1章-⒈冷戦後のロシアにおける「地政学」の文脈-・アイデンティティと地政学の癒着 その2
m81269288071_1-縮.jpg 現在のロシアにとって第二次世界大戦の記憶は貴重なアイデンティティのよすがとなっている。それは単にソ連という国家の勝利だったのではなく、ナチズムという悪に対する勝利だったのであり、ソ連はここで全人類的な貢献を果たしたのだという自負は現在も極めて強い。現在の口シアに暮らす諸民族に対しても、「共にナチスと戦った仲」だという意識は(ナショナル・アイデンティティとまでは言えないにせよ)一定の同胞意識を育む効果を果たしている。
プーチン政権下では、従軍経験者を讃える勲章を下げるのに使われた「ゲオルギーのリボン」が勝利のシンボルとして大々的に配布される。春になり5月9日の戦勝記念パレードが近づくと一般人や商店の店員、公共機関の職員など、至るところでこのリボンを付けた人を見かけるようになった。

他方、アイデンティティが外敵・ナチズムに対する勝利の記憶に依存している以上、ロシアという国家の統治形態や社会自体が常に「敵」との関係において規定されるということにもなりかねない。1990年代にウクライナ国防安全保障会議置記を務めたホルブーリンは、プーチン政権がロシアを「包囲された要塞」として描くことによって国民を動員しようとしているのだと非難する。
 また、ソ連崩壊後のロシアは、新たに画定された国境の外部にも問題を抱えていた。プーチン大統領はかつて、ソ連崩壊を「20世紀最大の地政学的悲劇」であると述べたことで知られるが、その後に続く言葉が注目されることは少ない。すなわち、「数千万人の我が国民と同胞が、ロシアの領域外に居ることになってしまった」という一言である。これはソ連崩壊によって2600万人とも言われるロシア系住民がロシア連邦の国境外に取り残され、ロシア民族が分断されてしまつたことを示している。ロシア人が「ほとんど我々」と呼ぶベラルーシ人やウクライナ人を含めれば、分断の規模はさらに巨大なものとなる。プーチン大統領の言う 「地政学的悲劇」が、単に超大国としての地位を失ったことを嘆くだけのものではないことは明らかであろう。
 以上のように、ソ連崩壊によって「ロシア的なるもの」は国境で分断され、新たに出現したロシアの国境内には「非口シア的なもの」が抱え込まれることになった。つまり、民族の分布と国境線が一致しなくなったわけで、こうなると「ロシア」とは一体どこまでを指すのか(国際的に承認された国境とは別に)という問題が生じてくる。これは地政学(「ロシア」の範囲)をめぐる問題であると同時に、アイデンティティ(「ロシア」とは何なのか)の問題でもあった。
  ここにおいて、冷戦後のロシアでは、地政学とアイデンティティがほとんど判別不能な形で癒着することになっだのである。
続く

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