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マリアムとフィールズ賞……石井志保子、雑誌「科学」2023年10月号 [メディア]

雑誌 「科学」 2023年10月号
マリアムとフィールズ賞……石井志保子
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マリアム・ミルザハニ(ペルシア語 مریم میرزاخانی ‎、英: Maryam Mirzakhani)は、イランの代表選手として.国際数学オリンピック1994年香港大会と1995年カナダ大会に出場し、いずれも金賞を受賞。カナダ大会で満点をとっている。黒っぽいビジャブ姿の出場記念写真も残っている。テヘランの大学を卒業後、アメリカへ移りハーバード大学で数学の博士号を収得、その後目覚ましい業績をあげ31歳でスタンフォード大学の教授に就任。

 リーマン面のモデュライ空間であるタイヒミュラー空間についての驚くべき結果で.2014年にフィールズ賞を受賞した。数学はノーベル賞の対象にはなっていないため,国際数学連合(IMU)が授与するフィールズ賞が数学におけるノーベル賞にあたるとされている。しかし少し性格か異なる。フィールズ賞には40歳以下という年齢制限があることだ。これは数学の特性によるもので、数学における偉大な業績は40歳までに達成されることが多いからだ。しかしこの年齢制限は女性数学者にとっては極めて理不尽な面もある。数学者として絶好調を迎える30代前半から後半にかけては子どもを産み育てるという人生の重要な時期とまさに重なっているからだ。子どもを産み育てながら女性で初めてフィールズ賞を受賞したマリアムの力量がいかに大きいか想像できる。

 しかし運命は残酷だ。マリアムはがんに蝕まれフィールズ貧授貴式には出席できたものの受賞講演はキャンセルせざるを得ない病状だった。女性初のフィールズ賞受賞者しかもイスラム圏出身ということで世界中のメディアは注目したが、メディアというのは時として人を傷つける。当時の国際数学連合(IMU)総裁のイングリッド・ドプシー博士はマリウムの意を汲んでメディアから彼女を守ることに決め、徹底してメディアを彼女に近づけなかった。3年後の2017年にマリアムは40歳でこの世を去った。早すぎる死だった。

 マリフムはイラン国内でヒジャプを被っていたがアメリカに移ってからは被っていない、そしてイスラム教徒ではないチェコ出身の男性数学者と結婚し一女をもうけた。女性であること。イラン人であること。宗教のこと、マリアムには色々な思いがあったことだろう。しかし彼女はそれらについては頑なに沈黙し、豊穣な数学のみを語ってこ世を去った。

 ヒジ々プを被った数学オリンピックの女子選手たち、Tシャツ姿の女子選手たち、そして多くの男子選手たちを見なから、彼らや彼女たちの人生が、またその数学が果てしなく広がっていくことを心から願った。数学の真実の前には国境も性別も風習もなんの意味ももたない。

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