SSブログ

警察の社会史 大日方 純夫/著 -- 岩波書店 -- 1993.3 [明治以後・国内]

警察の社会史   著者 大日方 純夫  オビナタ すみお  
出版者 岩波書店  岩波新書 新赤版 番号 271
出版年 1993.3
新書 大きさ 18cm ページ数 230p
ISBN 4-00-430271-4
712XkxL.jpg
 
 日露戦争直後,東京市の警察署の八割が襲撃される日比谷焼打事件がおきた.だがわずか十数年後,関東大震災では「自警団」が登場し,民衆はすすんで「治安」に協力する.この変化は何を意味するのか.「民衆の警察化」が典型的に押し進められた大正デモクラシー時期を中心に,社会生活のすみずみにまで及んだ「行政警察」全体像を解明する
 
1950年生まれの日本近代史研究者が、1993年に刊行した20世紀前半、特に大正期の日本警察の社会史。明治政府は、ヨーロッパから大陸型の警察制度を導入し、東京府から独立した東京警視庁と、中央集権的な警察制度を創設した。その際、事後処理的な司法警察と並んで、予防的な行政警察が設けられ、特に後者は人民の「守役」として、民衆生活の広範な領域に介入した
 日清・日露戦争後の帝国主義期には、工業化を背景として、風俗や道路への規制に加えて、工場や衛生、海外渡航への積極的な介入が目立つようになり、警察権限は無限定に膨張してゆく。しかし大正期の民衆騒擾の頻発は、警察の転換の契機となる。藩閥政府の私兵的性格の強かった警察は、以後「警察の民衆化」を掲げると同時に、巡査の待遇を改善して貧民との遮断を図り、加えて「陛下の警察官」としての精神的統制を強化する。
 また同時に、「民衆の警察化」も目指され、「自警」が組織化されていくが、その問題性は関東大震災下での朝鮮人虐殺(警察も流言の流布に一役買っている)の際に露呈した。
 結果として1930年代には、警察は「民衆化」されずに戦時体制を支える「力の警察」へと向かい、自警団は権力の末端組織として編入された(その過程の解明は今後の課題)。戦後、GHQによって警察権限は縮小し、地方分権化されたが、戦後の過程で再びゆり戻しが起こっていることを、著者は憂慮している。戦前警察の歩みを社会変化と関連付けて論じた好著であるが、著者が「今後の望ましい警察のあり方」をどう考えているのかが気にはなる。戦後の日本警察については、永井良和『風俗営業取締り』(講談社メチエ、2002年)がある。
 
 日比谷焼き討ち事件を機に群衆に警察署や派出所が襲撃され、警視庁廃止論まで飛び交った時点から警察が民衆を取り込んでいく過程とその顛末を、資料を盛んに引用して示していく著作。過去において群衆に警察署が襲撃されたなんていうのが今の状態から考えるとまず信じられなかったが、そんな行為が信じられない位にまで馴致されていく過程が段階的に示されていく。それはいわゆるパブリック・リレーションズ、批判的に言うなら印象操作の連続で、草の根から警察に親しみを覚えさせたり警察に頼らせたりしていく手際がたくさん収録されている。
 挙句には地域ごとの自警団も青年団や商業会や婦人団体などの肝いりで作り上げていく。統治を広げていく人たちの目論見と統治される気持ちよさに嵌っていく人たちの心情が並行的に示される。そんな自警の動きは関東大震災の下で朝鮮人虐殺へと結びつくが裁判では厳罰をまぬかれ、戦時体制下の産業報国会・大政翼賛会へと民衆は気持ちをぶれさせずに警察との絆をつなげていく。
 
目次
序章 警察廃止をめぐる2つの事件
1 行政警察の論理と領域
2 変動する警察
3 「警察の民衆化」と「民衆の警察化」
4 「国民警察」のゆくえ
終章 戦後警察への軌跡

nice!(0)  コメント(0) 

nice! 0

コメント 0

Facebook コメント