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超音速兵器の開発競争 [軍事]

防衛省の研究機関、防衛研究所発行の『朝雲』2022年2月24日掲載の防研セミナーより

極超音速兵器の開発競争

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 近年、音速の5倍(マッ(5)を超える極超音速領域で大気圏内を飛び、飛翔中に複雑な機動も可能な新兵器の開発が話題になっている。

 この兵器は、弾道ミサイルやロケットブースターで打ち上げられる無動力の極超音速滑空体(HGV)と、スクラムジェットと呼ばれる特殊なエンジンを搭載した極超音速巡航ミサイル (HCM)に大別される。

 これらの極超音速兵器をめぐっては、後述するように米中露3力国が激しい開発競争を繰り広げている。また、欧州・インドーオーストラリアなどの主要国も研究開発を進めている。

 北朝鮮も、2021年9月に続き、今年2022年1月には2度にわたりHGV・極超音速滑空体とみられる極超音速兵器の試射を行ったと報じられている。

 なぜ、こうした兵器の開発が国際社会で進んでいるのか。

経路予測が困難滑空中の機動も
 その理由として、極超音速兵器が将来の戦闘様相を一変させる「ゲームチェンジャー」になると一般に信じられていることが指摘できる。

 ICBMなどの従来の弾道ミサイルも、弾頭部は極超音速で目標に落下してくるが、その飛翔経路は予測可能であり、宇宙空間を通過中に地上や海上からレーダーで追跡しつつ迎撃することができる。

 しかし、HGV・極超音速滑空体は弾道ミサイルとは異なり、ロケットから切り離された後は宇宙空間に出ず、大気圏内を滑空してくるため飛翔経路が予測できず、レーダーでの探知も遅れてしまう。

  加えて、HGV・極超音速滑空体は滑空中に機動できるので、迎撃ミサイルをかわすことも可能である。

 このため、現在の弾道ミサイル防衛システムではHGVの探知・迎撃は非常に難しいとされる。また、従来の巡航ミサイルは低速のため探知・迎撃が可能であったが、極超音速で突入してくるHCM・極超音速巡航ミサイルに対しては有効な迎撃手段を欠いている現状にある。

 つまり、極超音速兵器は’防御不可能なゲームチェンジャー兵器だというわけである。

 ただし、これに異論もある。HGV・極超音速滑空体が大気圏内を極超音速で長時間飛び続けると、大気との摩擦熟で表面温度は2千度以上にもなり、HGV本体および内部機器が深刻なダメージを受ける。

 また、HGVの周りの空気がイオン化し、発生したプラズマか衛星などからの誘導制御信号を妨書するために、目標への命甲精度が低下する。さらに、極超音速飛翔中に機動を繰り返せば、抗力が増して速度が低下する。

 HCM・極超音速巡航ミサイルについても、スクラムジェットは超音速でエンジン内を通過する高温高圧の空気に燃料を噴射して燃焼させる仕組みであり、安定的に動作させ続けることが難しいという課題がある。

 これらの技術的な課題を克服しない限り、極超音速兵器はゲームチェンジャーにはなり得ないとも指摘されている。
実戦配備の中露 開発競争リード
極超音速兵器をめぐる米中露の競争では、現時点では中露がアメリカを一歩リードしている。

 ロシアは、2019年12月に長距離HGV・極超音速滑空体「アバンガルド」実戦配備したと報じられている。また、1000キロ以上の射程を持つ対艦攻撃用のHCM・極超音速巡航ミサイル「ツィルコン」や、インドと共同でHCM「プラモス2」を開発している。

 中国も、2019年10月の軍事パレードで中距離HGV「東風17」を初公開し、2020年に実戦配備したとされている。

 翌2021年8月には、中国が新たな極超音速兵器の発射実験を行ったことか報じられ、これについて同年10月にマーク・ミリー米統合参謀本部議長がテレビのインタビューで「非常に憂慮している」とコメントした。

 なお、中露とも極超音速兵器に核弾頭を搭載可能としていることから、通常弾頭との両用兵器として開発している模様である。

 これに対し、アメリカは通常弾頭のみの極超音速兵器を開発中であり、核弾頭を搭載する予定は今のところない。

 現在、陸海空軍および国防高等研究計画局(DARPA)がさまざまな開発フロジェクトを立ち上げており、プロトタイプによる発射実験を繰り返し行っている。

 また、アメリカは極超音速兵器を迎撃するための新たなミサイル防衛システムの開発に乗り出している。

 ミサイル防衛庁(MDA)は、新設された宇宙開発庁(SDA)とともに、小型赤外線衛星群を低軌道に配備して宇宙から極超音速兵器を探知・追跡できるシステムの構築を計画中である。MDAはまた、HGVを滑空段階で撃ち落とすための新たな迎撃ミサイルの開発にも取り組んでいる。
リスクが高まる「誤解」の核報復
 先述したように、中露は極超音速兵器の実戦配備を進めている。

 これらの兵器が実際に使用された場合、飛翔経路が予測不可能なことから、その兵器がどの目標に向かっているのかを確定できないため、誤解に基づく核報復の実行などの意図しないエスカレーションのリスクが高まると指摘されている。

 他方で、極超音速兵器の使用およびその脅しに対しては、核兵器のそれと同様に、従来の抑止が効くとの見方もある。

 米中露をはじめとする極超音速兵器開競争が、新たな軍備拡張競争を引き起こしかねないとの懸念も高まっている。

 軍備管理の専門家などからは、2026年まで延長された米露間の新戦略兵器削減条約(新START)の対象範囲に極超音速兵器を加える、あるいは多国間で新たな軍偏管理協定を締結して極超音速兵器の実験を一時停止また諮正するといった提言が出されている。

 また、兵器データの交換、実験の事前通告など、極超音連兵器の開発に係る透明性を高める措置も提言されている。

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ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)によれば、米国防総省がこの極超音連兵器に大きな労力と資金をつぎ込んでいるにもかかわらず、米国には極超音速ミサイルがない。しかし、ロシアと中国にはある。何が問題なのか?WSJは、ロシアの専門家は極超音速兵器の製造で米国が失敗した原因を、米国の開発は加速しているが、この兵器をつくるための「画期的な技術がまだ不足している」「ロシアは50年かかった」という声を伝えている。

 

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