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エチオピア高原の吟遊詩人

a998f6c229a.jpgエチオピア高原の吟遊詩人 

うたに生きる者たち
著者  川瀬 慈 /カワセいつし  
出版年 2020.11
出版者 音楽之友社
ページ数 247p 大きさ 20cm
ISBN 978-4-276-13571-0
県立図書館収蔵 /294.5/Ka97/
内容紹介
王侯貴族お抱えの楽師、戦場で兵士を鼓舞する係、祝祭を盛り上げるコメディアン…。エチオピアで音楽を職能として生きる吟遊詩人たちの活動、生きざまを追う。エチオピア音楽文化の動態を立体的に伝える一冊。
「アズマリ」「ラリベラ」などの名で呼ばれる、エチオピア北部で音楽を職能として活動する人々
川瀬氏が、仲間にしか通じない隠語でかたく結ばれた共同体に入り込み、とりわけ子どもたちとの間に親密な交流を作り上げてゆくあたりの、つねに川瀬氏自身の姿が前面に出てくる
家の軒先で歌い門付(かどづけ)を行うことを生業とするラリベラの人々の活動を追う記録映像、『ラリベロッチ ―― 終わりなき祝福を生きる』という映像作品でYouTubeでも見れる
目次

1 チュンブルなやつら
2 古都ゴンダール、王女が眺めた場所
3 生きつづける神話、楽器マシンコ
4 権力への従属と抵抗、メディアとしての芸能者
5 祝祭儀礼とアズマリ
6 精霊との会話の仲介
7 農作業とアズマリ
8 ほめ歌
9 蠟と金、イメージの世界への潜行
10 秘密の言葉の秘密
11 故郷とのつながり
12 タガブとイタイア
13 ひろがるアズマリ・ネットワーク――メケレにて
14 ワシントンDCのアニキ
15 アズマリベットの栄枯盛衰
16 外側から揺り動かされるエチオピア音楽
17 職能者からアーティストへ
18 高原の吟遊詩人ラリベラ
19 様々な呼称
20 シュカッチ伝説
21 ラリベロッチ――終わりなき祝福を生きる
22 映像へのリアクション
23 さあ私もあなたも生き延びよう
おわりに
著者紹介
川瀬慈(カワセいつし) 1977年岐阜県生まれ。京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科博士課程修了。国立民族学博物館/総合研究大学院大学准教授。著書に「ストリートの精霊たち」など。

サントリー学芸賞 2021年受賞の挨拶より
本書でとり上げた、弦楽器マシンコを弾き語るアズマリは、時代の変遷の中で様々な役割を担い生きてきました。王侯貴族お抱えの楽師、戦場で兵士を鼓舞する係、占領軍に抗うレジスタンス、祝祭の場を盛り上げるコメディアン、庶民の意見の代弁者、世相を斬る評論家等、実に多様な顔を持ってきました。現在アズマリは、酒場や宴席、祝祭儀礼を中心に旺盛な活動を繰り広げています。一方、謎の多い集団とされてきたラリベラは、早朝に家々の軒先で歌い、乞い、金や食物を受け取ると、その見返りとして祝詞を与える、いわば門付けの芸能者です。

 エチオピア北部の社会において、これらの歌い手たちは人々から畏れられると同時に差別される存在であったといえます。しかしながら歌い手たちはしたたかです。歌声によって空間を異化し、その場を多層的に読みかえていきます。コミカルな歌を通して、あちこちで笑いの渦を巻き起こしたかと思えば、諸行無常や、生と死の底知れない深みについて、じっくり歌い語ります。そんな歌い手たちの声の力と想像力、そして地域社会の人々との豊かなやりとりに強く惹きつけられ、私はエチオピア高原に、何度も何度もひき戻されてきました。本書は、エチオピアの一筋縄ではいかない歌い手たちと私との交流を軸に、私が魅せられてきたアズマリ、ラリベラの活動に迫り、音楽・芸能のありかたをアフリカの地平から相対化して捉え、考えるというねらいを持ちます。乱世を、激しく移ろいゆく世界を、力強い歌声とともに生き抜いてきたエチオピア高原の吟遊詩人の歌に、今後も耳を傾け、体を揺らしていきたいと思います。

 新型コロナウイルスの感染症の世界的な蔓延、気候変動、各種の紛争、そしてグローバル資本主義の欲望の歯車の加速が引き起こす様々な問題。我々は現在、これら地球レベルの危機に直面しているといえます。人類が置かれている状況について、人類学的な視点に立脚し内省し、危機に応答するビジョンを打ち立て、それをかならずしもアカデミックな論述に固執しない語り口で世に問いかけていく。私はそんな吟遊詩人になることをめざしたいです。

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