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詭弁ハンター 3回目、「控えさせていただく」という詭弁 [思考の型]


本当はこわい「控えさせていただく」という詭弁。強者と弱者を固定化するマジック  文=山崎雅弘


 第二次安倍晋三政権で次々と安倍首相がらみのスキャンダルが発覚した時、当時の安倍首相や菅義偉官房長官、そして不正疑惑への関与を疑われた官僚たちが、揃って「何々が何々なので、お答え/説明を控えさせていただく」と口にした。


この台詞が発せられると、野党議員や記者は、まるで行く手にバリケードを置かれたように立ち止まり、それ以上相手を追及するのをやめてしまいました。この台詞は、相手の質問を封じる効果という点では、今までのところ万能に近い「キラーワード」ですが、これも実は詭弁です。そして、これは単なる「はぐらかし」に留まらず、発する者とその相手との関係を上下の構造に固定化してしまう、きわめて危険でおそろしい詭弁なのです。


首相や大臣、および内閣の指示を受けて公務を行う公務員は、国政に関わる問題や不正疑惑の追及に対し、本当のことを説明する義務を負っています。「その質問には答えたくないのでパス」という返事は許されません。 政治家や官僚が、見た目は謙虚な態度で言う「お答え/説明を控えさせていただく」という台詞は、論理的に考えれば、「その質問には答えたくないのでパス」という返事と、まったく同じです。何が違うかと言えば、「控えさせていただく」という言い回しが持つ、謙虚で奥ゆかしいような雰囲気ですが、実際にやっていることは高圧的な「返答の拒否」であり、謙虚どころか、きわめて傲慢な振る舞いです。

「控える」という日本語は、新村出編『広辞苑』第七版(岩波新書)には、いくつかの意味が記されていますが、質問への返答という動作に関わるものとして、「(個人の事情や他者への配慮などから)ある行動をとらないようにする。見合わせる」という説明があります(2434ページ)。
野党議員や記者は、「控える」という台詞を発した相手が、何かしらの「配慮」をしているのだ、と勝手に善意で解釈して、引き下がっているようです。しかし、本当ならそこで、一見もっともらしい謙虚さの芝居に騙されず、 「貴方はいま『控える』と言われた。それは具体的に、誰に対するどのような配慮なのですか?」と言わないといけません。。
首相や大臣ら公人の説明責任と企業のクレーム対応の違い


「個別の何々なので、お答えは差し控える」というのは、日本語として成立していない詭弁です。個別の何かであっても、答えなければならないことに関しては、答えないといけない。「個別の何々なので」は理由になっていない。


「個別の何々なので」という台詞にだまされる人が多いのは、企業のクレームや問い合わせへの返答でよく見かけるフレーズだからでしょう。「個別の理由についてはお答えを差し控えさせていただきます」という説明を、企業の広報担当者はよく使います。


この企業の態度については、社会的に許容される面もあります。膨大な問い合わせにいちいち返答すれば、業務に支障を来しますし、全ての問い合わせに必ず回答しますとも約束していません。違法行為の疑いがあれば、説明する社会的責任が生じますが、それ以外の状況では、企業側の権利として、「お答えを差し控える」ことが認められています。
 しかし、権力を握る首相や大臣、それに事実上仕える公務員は、こうした一般企業の場合とはまったく事情が異なります。彼らは、公務に関する「説明責任」を国民に対して負っており、国民の代表である野党議員や国民の代理人的な立場でもある記者から、政府の権力行使や不正疑惑に関する質問を受ければ、中身のある説明をしなければならない立場です。
「強い立場」対「弱い立場」という関係の固定化
 もう一つ、この詭弁には目に見えない、おそろしい「仕掛け」が隠されています。その「仕掛け」とは、「控えさせていただく」式の詭弁を「強い立場の者」が発し、それを「弱い立場の者」がそのまま受け入れてしまうと、「強い立場」と「弱い立場」という上下関係が固定化されてしまう、という心理的効果です。
 例えば、我々一般人が税務署に対して「今年は、納税は控えさせていただきます」と言って税金の納付を拒絶することができるでしょうか? 学校の生徒が担任教師に「今回は、宿題の提出は控えさせていただきます」と言えるでしょうか?
 この詭弁は常に「強い立場の者」から「弱い立場の者」に向けて発せられます。そして、それが詭弁だと見抜かれず、質問者が引き下がれば、その瞬間に「強い立場」と「弱い立場」という上下の関係が、さらに一段階、強固なものになってしまいます。


 実際には、「説明/コメントは控えさせていただく」という台詞は「お前の質問には答えてやらない」という傲慢な言い草です。「控える」という言葉が持つ謙虚な響きにだまされて、そこに隠された傲慢さに気づかない人が多い様子ですが、自分が「強い立場」だと自覚している人間しか、この言葉を発することはできないのが現実です。


(山崎雅弘)


タグ:詭弁
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