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史上最大の伝染病 牛疫:第7章の第3.節 明治初年に侵入した牛疫がもたらした混乱、その壱 [生き物]

史上最大の伝染病 牛疫:根絶までの四〇〇〇年
著者 山内 一也  岩波書店
新潟市図書館収蔵 県立図書館収蔵

第7章 日本でも大きな被害をもたらしていた牛疫
第3.節 明治初年に侵入した牛疫がもたらした混乱
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ans-207458636.jpg江戸人は獣肉が「精をつける」体力回復に効果がある栄養豊富でこと、薬食いと称して食していた。元禄年間には彦根藩士が良肉を主剤にした「反本丸(へんほんがん)」と呼ばれる薬用牛肉を製造、販売。赤穂浪士も「養老品」として同志に彦根牛肉を送っていた。
 
水戸藩の第9代藩主の徳川斉昭(なりあき)は、肺を患っていて、牛肉をスープにしたり、鍬の鉄板の上で焼いて、つまりスキヤキにしたりして、薬食いしていた。
 斉昭は近江牛を好み、彦根藩(近江)の井伊家から生肉十貫匁と味噌漬十貫匁を毎年、海路で船便で送って貰い、その返礼として、小梅の塩漬百樽を帰り船に持たせてやっていた。1850年から15代藩主になった井伊直弼(いい なおすけ)が、安政5年(1858年)4月に大老になると、斉昭との幕政上の確執から領内で牛馬の屠殺を禁じた、といって生肉十貫匁などを断ってきた。
それで、何とか従来通りに、と再三使者をやって頼んでみたが、直弼はガンとして応じなかった。遂には斉昭本人が江戸城で直弼に直接懇願したが、「鍬で焼いて食するとは、とんだスキもの」と、すげなく面と向かって罵しるようにいわれたという。
そうした、主君の面子を踏みにじった直弼に対する家来だった水戸浪士達の復讐が、大老暗殺・安政7年3月3日(1860年3月24日)の江戸城桜田門外の変と、当時言われた。事件後十日目に早刷りで出された「桜田門牛騒動之図」の左端下側に三行、「モウ御免と桜田門」「食べ物の恨み恐ろし雪の朝」「大老が牛の代わりに首切られ」とある。桜田門の変は、単なる食べ物の恨みから起った死闘と解されていた。
『確定幕末史資料大成』(日本シェル出版、昭和五十一年刊)
1862年unnamed.jpg

明治になって警視庁を創設した川路利良は、桜田門の変を勤皇の美挙とする為に、それに反する書物などを徹底的に捜査して回収廃棄した。水戸浪士の遺族達にも、「(桜田門の変を)勤皇の美挙としなければ、追贈位がやれない。となると、年金や恩給も遺族に渡したくても出来ない」 といっていたという。これが現在の桜田門事件を勤皇の美挙とする薩摩製歴史が作られたという説である。
閑話休題
事件によって、大老が命を落とすほど牛肉が美味しいものという評判が広がり、桜田門事件を機に牛肉の旨さは江戸の庶民の間に急速に浸透して行ったようだ。
 
桜田門の事件1860年当時、江戸には既に二十数人の牛肉商人がおり、養生薬の名目に近江牛の味噌漬けなどを売っていた。桜田門事件「大老が牛の代わりに首切られ」を機に牛肉屋が繁昌し出したので、幕府は困惑した。1862・文久2年の開港をしおに、貿易で商人が集まり、急速に発展する横浜へ移住して営業するよう指示したという。
 
1862・文久2年には横浜に居酒牛鍋屋「伊勢屋」が開業され、日米修好条約が締結され、横浜には多くの外国人が居住するようになる。外国人は食料である生牛を船で運んできたが、それでは足りなくなり、在来の牛を求めるようになった。1865慶応元年に外国船が神戸港に寄港し、牛を買い入れ横浜に運んだと日本食肉文化史に書かれている。1867慶応3年には屠畜場が、高輪の英国公使館前には牛肉屋が開店していた。屠畜場、食肉販売店、食堂の牛鍋屋が揃うことによって、牛肉食はより一般化し、浸透していった。
当時、牛は近畿、中国地方で農地を耕作する役牛として多く飼育されていた。近畿圏でも勾配がきつい棚田や森林の伐採の運搬にも使用する場合にあっては、馬や雄牛を役に使用していた。岐阜、愛知以北は多くは馬が用いられていたことから、牛は近畿方面で入手せざるを得なかった。
1869明治2年から陸路での、近江から横浜へ牛の搬送を始めてる。一人が10頭の牛を繋いで、約12日から17日かけて現在の滋賀県蒲生郡から横浜に向かった。
1872明治5年には東京にも販路を広げ、直接取引による収益は相当なものとなり肉牛国内移出のほとんどを滋賀県産が独占する。【「近江牛ノ沿革及経済的調査」滋賀県資料、明た30(7)】
清水 次郎長(しみずの じろちょう)親分に助けられたことなどが記載された記録がある。東海道五十三次には運搬に携わった者が宿泊した牛宿の痕跡が今も残っている。
その頃に、牛疫が明治政治上の問題になっている。
近江商人、但馬牛・神戸牛p03.jpg
中断

タグ:牛疫
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