SSブログ

イスラム入門 分断を乗り越えるための ③闘病の末に亡くなると天国へ [隣の異教]

分断を乗り越えるためのイスラム入門 著者:内藤正典【ナイトウまさのり】
幻冬舎新書 698
第1章 イスラムはパンデミックに強い・・085頁 闘病の末に亡くなると、天国が約束される・・  より


 もう一つ注目すべきは、イスラムにおける「死」のとらえ方です。ハディースには次のような一節があります。
アブー・フライラによると、預言者は「赤痢で死んだ者は殉教者であり、ペストで死んだ者も殉教者である」と言った。       (『ハディース イスラーム伝承集成《中》』882ページ、牧野信也訳、中央公論社)
アーイシャが神の使徒にペストについて尋ねたとき、彼は「それはアッラーが御心のままに送られる罰であるが、神はそれを信徒たち対する恵みの手段にもされる、ペストが発生したとき、アッラーが予め定められたことだけが起るということを確信して忍耐強く自分の国に留まる信者にはは、必ず殉教者と同じ報いを与えられるであろう」と答えた。     (『ハディース イスラーム伝承集成《中》』882~883ページ、牧野信也訳、中央公論社)
 闘病は「最後の審判で受ける罰の前借り」とされます。イスラムでは、この世界はいつか滅亡するという終末思想があります。そして、終末を迎えるとき、アッラーが死者を一人ずつ呼び出して、生前の善行と悪行を天秤にかけ、善行が重ければ楽園(天国)行き、悪行が重ければ火獄(地獄)行きとなります。これが最後の審判です。
 病気で苦しむことは「善行」とされているので、病気で苦しい思いをすると生前の悪行が帳消しになって来世で楽園(天国)に行ける可能性が高まるとムスリムは考えます。闘病が苦しいものであるほど、闘病それ自体が善行となる仕組みです。
 その結果、不幸にして命を落としたとしても、ハディースには明確に「殉教者」と書かれてます。殉教者には来世での楽園(天国)行きが約束されます。つまり、ペストであれ、コロナであれ、感染症で闘病の末に亡くなると、天国が約束されるというわけです。
 たとえ辛いことであっても、それを「神が予め定めたこと(定命)」として受け入れることは、「六信」といってムスリムが信じなければならないことの一つです。
sasie12b.jpg
 日本であれ、西欧世界であれ、新型コロナによる闘病や死に対して、このようなポジティブな見方は存在しません。
 これは。災いに対するムスリムの強さと言ってよいでしょう。ムスリムは、苦境に際して、独自のレジリエンスをもっています。ここで言うレジリエンスとは、苦難に「立ち向かう」というつような強さのアピールではありません。苦境を可能なかぎりしなやかにかわしていくことです。
 ムスリムには、どんな苦しみであっても。運命をアッラーの手にゆだねることで、不必要に悩まないという思考回路ができていると言えます。西欧では、イスラムと言うと、怖い神が人間の意思や自由を制約していると思われがちですが、それはまったくの誤解です。アッラーは、信徒が彼(アッラー)との契約を破ったときには激しい怒りを示して罰しますが、守ろうと努力して果たせなかった場合には、限りない慈悲を示します。辛い目にあっとき、この慈悲は極限まで深ります。それが彼らのレジリエンスの基になっているのです。

nice!(0)  コメント(0) 

nice! 0

コメント 0

Facebook コメント