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原発プロパガンダ 岩波新書 [メディア]

51hks+YOIuL.jpg原発プロパガンダ

岩波新書 新赤版 1601
著者 本間 龍 / ホンマ リュウ
出版者 岩波書店
出版年 2016.4
ページ数 10,216p 
ISBN 978-4-00-431601-5
新潟市立図書館収蔵 中央ホンポート館 S/539.0/ホン/

内容紹介
世界有数の地震大国日本になぜ54基もの原発が建設され、多くの国民が原子力推進を肯定してきたのか。電力料金を原資とする巨大なマネーと日本独自の広告代理店システムが実現した「安全神話」と「豊かな生活」の刷り込み。40年余にわたる国民的洗脳の実態を追う、もう一つの日本メディア史。
著者
1962年生まれ。博報堂で約18年間営業を担当。2006年退職後、在職中に発生した損金補填にまつわる詐欺容疑で逮捕・起訴。服役を通じて刑務所のシステムや司法行政に疑問をもち、出所後その体験を綴った『「懲役」を知っていますか?』(学習研究社)を上梓


はじめに    より
 独裁国や軍事国家なら、国家や権力者の意思を伝えるために国民をテレビやラジオの前に強制的に座らせ、為政者の発言や演説を聞かせることができるが、平時における自由主義社会では、もちろんそうはいかない。そのため、権力側の主張を無理なく効果的に国民に伝える、別の手段が必要となった。その役割を担ったのが、戦後、日本人の生活の隅々にまで浸透した「広告」であった。そしてそれらを実際に作り、最も効果的な展開計画を立案し実行したのが、電通を頂点とする大手広告代理店であった。

 広告展開のために電力九社 (原発がない沖縄電力を除く )がー九七〇年代から 3.11までの約四〇年間に使った普及開発関係費 (広告費 )は、実に二兆四〇〇〇億円に上っていた (朝日新聞社調ベ )。これは、国内で年問五〇〇億円以上の広告費を使うトヨタやソニーのような巨大グローバル企業でさえ、使用するのに五〇年近くかかる金額であった。
 全国の電力ー〇社による会費で運営され、任意団体のため活動内容と予算が公表されていない電気事業連合会 (電事連)は、電力会社の別働隊として、電力供給管内に活動が縛られる電力会社に成り代わり、地域や県に関係なく広告を出稿

 経産省・資源エネルギー庁、環境省などの政府広報予算、二〇〇〇年頃から広告出稿を開始した N U M〇 (原子力発電環境整備機構 )をも加えれば、投下された金額は、前述の二兆四〇〇〇億円よりもさらに数倍に膨れあがっていたと考えられる。原子力ムラはこれらの膨大な資金を広告代理店に渡し、性差や年齢別など、あらゆるターゲッ卜向けに原発の有用性を刷り込む広告や C Mを大量に作らせ、ばらまいた。

 その巨額の広告費を受け取るメディアへの、賄賂とも言える性格を持っていた。あまりに巨額ゆえに、一度でもそれを受け取ってしまうと、経営計画に組み込まれ、断れなくなってしまう。そうしたメディアの弱点を熟知し、原子力ムラの代理人としてメディア各社との交渉窓口となったのが、電通と博報堂に代表される大手広告代理店であった。

日本の広告業界の特殊性

 日本の広告業界は、寡占化を促す非常にいびつな構造を持っている。

 欧米では寡占を防ぐために、一業種一社制、つまり、一つの広告会社は同時に二つ以上の同業種他社の広告を扱えないという制度を取っている。たとえば、自動車業界でトヨタと契約したなら日産やホンダの仕事はできない、といった縛りがあるのだ。また、広告制作部門とメディア購入部門の分離が大原則であるのに対し、日本にはそうした決まりがない。このため、どの業種でも上位二社が全てのスポンサーを得意先として抱えることができるうえ、 C M制作から媒体購入 (メディア・バイイング )までの一貫体制を敷ける二社が圧倒的に優位な仕組みとなっている。

 さらに特殊なのは、欧米の広告会社の基本スタンスが「スポンサーのためにメディアの枠を買う」なのに対し、日本ではメディアは、電博に「広告を売ってもらう」という弱い立場にあるため、昔も今もこの二社には絶対に反抗できないのだ。 

 反原発報道を望まない東電や関電、電事連などの「意向」は両社によってメディア各社に伝えられ、隠然たる威力を発揮していった。東電や関電は表向きカネ払いの良いパトロン風の「超優良スポンサー」として振る舞うが、反原発報道などをしていったんご機嫌を損なうと、提供が決まっていた広告費を一方的に引き上げる (削減する )など強権を発動する「裏の顔」をもっていた。そうした「広告費を形にした」恫喝を行うのが、広告代理店の仕事であった。 

 そして、原発広告を掲載しなかったメディアも、批判的報道は意図的に避けていた。電事連がメディアの報道記事を常に監視しており、彼らの意図に反する記事を掲載すると専門家を動員して執拗に反駁し、記事の修正・訂正を求められたので、時間の経過と共にメディア側の自粛を招いたのだった。

 こうして 3・ 11直前まで、巨大な広告費による呪縛と原子力ムラによる情報監視によって、原発推進勢力は完全にメディアを制圧していた。つまり、日本の広告業界の特殊性が、原発プロパガンダの成功の大きな要因だったのだ。

続く


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