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非正規介護職員ヨボヨボ日記ー2021年 [移民・難民]

71A0Le+sjgL.jpg非正規介護職員ヨボヨボ日記
当年60歳、排泄も入浴もお世話させていただきます
著者 真山 剛 /著  
出版者 三五館シンシャ
出版年 2021.5
ISBN 978-4-86680-917-5

新潟市立図書館収蔵 中央ホンポート館ほか  
NDC分類(9版) 369.17

まえがき——     ——想像をはるかに超えた 景色 
介護職は最後の手段、という人がいる。
どうしても仕事が見つからない場合、仕方なく就く職業という意味だ。

私は八ローワークの「その年だと介護の仕事しかありませんよ」との紹介で半年間、介護職員養成 (介護職員初任者研修 )スクールに通い、修了後 56歳で介護の世界に入った。クラスには 70歳の同級生もいて今でもつきあいがある。
それ以前は、デザイン事務所、建設コンサルタントの役員、環境商材の施工会社経営などさまざまな仕事をやってきた。居酒屋 2店舗のオーナーだったこともある。広告代理店で広告取りの営業もした。自作の絵画を売って生活していた時期もある。

つまり、多くの職歴や失敗を経て仕方なくこの仕事に就いたわけだ。恥ずかしながら私は、ひよんなことから 40代後半から小説の執筆を始め、まぐれで小さな文学賞もいただいた。その後も惰性で執筆を続けていたが、納得がいかず途中で投げ出した作品も多い。

 そんなとき、この「日記シリーズ」を知った。著者はみな、自分と同じ中高年の方ばかり。すぐに最初の 3作を入手し読んだ。

 行間からにじみ出る哀愁、生活感、そして人問のたくましさ、したたかさ。

 机上でアイデアをこねくり回し、リケだけを狙っていた自分の作品に欠けていたものがここにある、と思った。それは現実の体験に裏打ちされた「実感」。

 彼らに触発され、私も今の仕事の「実感」を表現したいと強く思った。

 私が養成スクールで取得した介護職員初任者研修という資格は厚生労働省認定の公的資格であり、以前のヘルパー 2級に相当する。

 この業界では、いちばん下つ端に属し、利用者のお世話係程度の仕事だ。キャリアもまだ 4年で、未熟な私が介護について述べるのは甚だおこがましいが、ただ底辺から見えてくる景色を私なりにお伝えしたいと思った。

 実際、介護の世界は想像をはるかに超えた、汚く危険で、きつい世界たった。これに「給料が安い」を追加して「介護職の 4 K」ともいわれている 。 

 排泄物の処理はもとより食事の介助、入浴や着替えなど身の回りの世話をする。

 被介護者の多くは、高齢で身体が不自由な方や認知症の方で、通常では想像できない予測不能な言動をする。戦死した夫の名前を体に刻んだ女性や、戦時中の防空壕(ごう)の様子を克明に語る女性。夜中、個室に謎の客が訪れるとシリアスに話す男性…など仕事中、施設利用者の人生の光や影に触れる。

ほとんどの職員がまじめで献身的に従事しているにもかかわうず、利用者に噛みつかれたり、泥棒呼ばわりされることもある。

 離職率も高い。女性が主体の職場であることから人間関係のもつれからくるストレスや、腰痛などの体調小良で職場を離れる人も多い。

 これだけ次々とマイナス面を掲げることのできる介護の仕事、それなのに私は今も介護ヘルパーを続けている。

 だからといって、この仕事に生きがいを感じ始めた、なんてことはまったくない。私もまもなく高齢者の仲間入りをする。これからの己の行く末を彼らから、良きにつけ悪しきにつけ学ばされている気がする。ここでの老人たちのありようは人生の縮図。多様な生きざまを見せっけられている。

 人手不足の業界だから中高年でもどうやら介護職なら就けそうだな、でもやっぱり腰が引けるな、などと考えたことのある人も多いだろう。「絶対無理」と一言で片づける人もいるに違いない。あるいは、すでに介護職に就いていて、物憂いを胸に忍ばせながら仕事に従事している人がお読みになるかもしれない。

 閉ざされた介護施設で、繰り返される悲喜こもごも。それに翻弄される日々。

 介護については、小説や映画、エツセイや漫画など数多の作品がある。今さら手垢のついた話かと思われるかもしれないが、本書はそれらとは少し趣を異にする。

 最後まで読んでいただければ、なぜ私がこの仕事を続けているのか、少なからずご理解いただけるのではないかと思う。

 本書に描かれたエピソードのどれか一つでも、読んでくださった方々の心に残せたなら、さらに介護現場の実態やそこで働く者の現状をご理解いただけたならば、それだけで幸いである。


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