SSブログ

耕すことの弊害--ミミズの農業改革2- 農地ではミミズが「沈黙」するー㊦ [農から見つめる]

耕すことの弊害--ミミズの農業改革2- 農地ではミミズが「沈黙」する  より覚え書

707.jpg

 有機農業の畑でもミミズが少ない

 実際に、農業で土壌を耕すとミミズにとってどのような影響かあるのだろうか?主にヨーロッパとアメリカで得られたデータをまとめたブリオネスとシュミットの報告によると、保全的な管理として不耕起を採用した場合、耕起区に比べて約二倍の数のミミズが生息し、体重を合わせると3倍にもなった(図2)。
 日本の畑地ではロータリー耕といって小型の刃を高速で回転させ、土を細かく砕く耕うん方法か好まれている。ヨーロッパやアメリカではプラウ耕といって大きな鋤で土を反転させる方法が主流である。プラウ耕ならまだミミズもいくらかは切断されずに生き残るかもしれないか、ロータリー耕はほぽ皆殺しであろう。
 農家は畑を耕すことで雑草を減らしたり、種子や苗の植え付けの作業を容易にしたり、堆肥や肥料を土に混ぜたりしている。ロータリー耕で整地した農地はまるで試合前の甲子園球場のグランドのように滑らかに土か整えられている。その農地の仕上がりをみてうっとりするような満足感を感じることもわかるような気がする。まさか、わざわざミミズのことまで考えて農地を管理している人はほとんどいないだろう。
 有機農業は自然にやさしいと言われているか、土壌動物にとってはやさしくない。図3は、慣行栽培(晨薬も化学肥料も使う)とそれらを使用しない有機栽培とで農地や農地周辺のさまざまな生物の多様性を比較したものだ。
11月-003図3-01.jpg
 この研究によると、有機栽培の農地では慣行栽培の農地に比べると多様性が上がる動物群が多く、農地の作物以外の植物の多様性も上がっている。しかしよくみると、分解者はほとんど差か無い。ここでの分解者にはさきほど説明したよりなミミズやダンゴムシ、ヤスデといった有機物を食べる動物と、微生物が含まれる。この研究の有機栽培は耕している畑でのデータであった。横浜国立大学や松沢さんの畑での結果でも明らかなように、有機截培でありても耕すだけで土壌牛物は大きなダメージを受ける。
 農家にとって知らないほうがよかったのかもしれないが。ロータリー耕によってミミズ以外に微生物や他の土壌動物も死んでいるのだ。
 もうおわかりだろう。有機農業は化学肥料や農薬を使わないので、地球や自然にやさしい(やさしいってどんなことだろう?)とされているが、耕す農業はどんな農業でもミミズや他の土壌動物、微生物にはまったくもってやさしくない。有機農家の中には、ミミズがいるとキャベツの中に入ってきて、そのまま出荷すると消費者に嫌われるので邪魔だとか、未熟な堆肥を使うとミミズが増え、それを狙ってモグラがくるので迷惑だといった感想を述べる方もいる。そんな懸念には。自信を持って答えられる「ご心配なく、耕せばミミズはいなくなります」。少なくとも私たちが普段目にしている野菜や穀類を栽培するような晨地の土にはミミズがあまりいない、と思ってよい。
耕すことの弊害
 土壌生物は、土の構造と機能を維持するために欠かせない。逆に、一般に耕うんは土壌劣化につながると考えられている。過度な耕うんは土壌団粒を破壊するためだ。
 土壌団粒とは、鉱物や有機勧の破片が植物や微生物が分泌する多糖類などによって結合したものである。団粒を拡大すると微小な有機物と粘土鉱物が結合している。さらにこれらが複数結合すると大きな粒子となる。このときに、塊の中に隙間が生じる。多孔質の粒子は、粒子内の狭い隙間に強い力で水分を保持し、粒子間では水が速やかに移動できる。すなわち、保水性と排水性が両立する。園芸資材として販売されている鹿沼土のような材料は、粒子の中に隙間があるので、自然にできた団粒と同様、すぐれた保水性と排水性を持つ。
 この団粒の形成に、土壌生物が関わっている。ミミズのような動物が落葉を食べるとき、落葉だけでなく土も一緒に食べる。ミミズは歯や骨のような硬い組織を持たないので、落葉を粉砕することができない。そのかわり厚い筋肉の塊である砂嚢を持っている。そこで、砂嚢で土の粒子とともに食べた落葉を混合することで細かくしているのだ。ミミズの糞はさきほど述べた微小な粘土と有機物の結合に比べると極めて大きいが、落葉と土を混合することで粘土と有機物の結合を促進する。ミミズ糞の中で、最初のうちは弱い結合状態にある粘土と有機物が、時間がたつと強く結合するようになる。このような団粒は水に浸しても粒子が壊れることがないので、耐水性団粒と呼ぼれる。
ミミズの、体を通って糞になると二mm以上の大きさの団粒になるようだ。ミミズは小さな生き物だが、毎日体重とほぼ同じ量の土と落葉を食べ。せっせと糞として排泄している。そのほとんどが耐水性団粒として土壌に集積する。
不耕起・草生の地面は三割から四割かミミズ糞起源の団粒であると推測できる。もちろん、時間と共に団粒が崩壊してより細かい土壌粒子に戻るわけだが、一定数のミミズがいることで団粒の割合が維持されていると考えることができる。
 トラクターによる農地の耕うんはこのような団粒を物理的に破壊する。団粒が壊れて細かい粒子が多くなった畑地土壌に雨が降ると、表流水とともに土の粒子が流れてしまう。雨が降ったあと近所の畑から道路に土が流れ出てくるのを見たことがないだろうか。
 多くの農家も一般の方も、農業で基本とされている耕うん(耕起)がミミズをはじめとする土壌生物にとって脅威であると知ると驚く。しかし、森林も自然の草原もその土のあり方を想像してほしい。自然界の土壌は、農地のように頻繁に耕うんされることはない。むしろ、暗くて狭いが快適な土壌環境は、本来耕うんのような撹乱とは無縁できわめて安定したものなのだ。
 短期的には効平的な農業を可能にするために、農薬と耕うんで土穣が化学的にも物理的にも無生物に近い状態に変えられる。しかしその一方で、土壌生物が消えることで土を維持するさまざまな循環が途切れる。そして土は、少しずつ劣化し始める。
 農薬の化学的影響が広く知られ、有機農業が試みられているが、耕うんも土壌に大きな影響をもたらす。ほとんどの農地では、今もミミズたちは沈黙しているのだ。

nice!(0)  コメント(0) 

nice! 0

コメント 0

Facebook コメント