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銀の流通と中国・東南アジア [ユーラシア・米両大陸・アフリカ]

銀の流通と中国・東南アジア

The Circulation of  Silver in China and Southeast Asia銀の流通と中国・東南アジアL.jpg

【編】豊岡 康史[トヨオカ・ヤスフミ]大橋 厚子[オオハシ・アツコ]
山川出版社(千代田区)(2019/02発売)
サイズ A5判/ページ数 268p/高さ 21cm
商品コード 9784634672475
価格 ¥2,970(本体¥2,700)
NDC分類 565.13


内容説明
アヘン戦争直前、グローバルな銀の奔流に翻弄される中国と東南アジア。国際学術会議で展開された最新の経済史の議論を通じ、中国・東南アジアの近代の幕開けと世界経済の連環を読み解く。銀と世界経済史研究の最前線。
19世紀前半のアジアにおける銀流通の基礎的知識と、「中国銀の流出はアヘン戦争によるものなのか」といった、銀が経済・社会へ与えた影響に関する最新の研究成果を紹介した論集。

目次
第1部 中国
(アヘン戦争前夜の「不況」―「道光不況」論争の背景
;道光年間の中国におけるトロイの木馬―そして太平天国反乱期の銀とアヘンの流れに関する解釈
;十九世紀前半における外国銀と中国国内経済
;十九世紀中国における貨幣需要と銀供給)


第2部 東南アジア
(銀の流通に学ぶ十九世紀前半の東南アジア諸国家の動向―域外貿易を重視した概説
;近世ベトナムの経済と銀)


著者等紹介
豊岡康史[トヨオカ・ヤスフミ]
信州大学学術研究院(人文科学系)准教授

大橋厚子[オオハシ・アツコ]
名古屋大学大学院国際開発研究科教授(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
※書籍に掲載されている著者及び編者、訳者、監修者、イラストレーターなどの紹介情報です。


書評 雑記@史華堂
長らく世界で覇権を誇ってきた中国が、19世紀半ばになってなぜイギリス・フランス・アメリカなどの欧米列強諸国に取って代わられたのかという問題について、当時の国際通貨かつ中国での事実上の基軸通貨であった銀の流通事情からその背景を探ってみようというものです。加えて、当時の東南アジアについても考察しています。

上記のテーマについて問われると、真っ先に浮かぶ事件が1840年に勃発したアヘン戦争で、今でも教科書に必ず取り上げられるわけですが、アヘン戦争というのは実は中国の凋落の「結果」であって、覇権を失う原因ではないというのが今や共通認識です。中国のアヘン輸入も、確かに貿易赤字を生んでいたものの、中国の社会経済に深刻なダメージを与えるほどではなかったというのが通説?です。


となると、なぜ中国は覇権を失ったのか。もちろん欧米の軍事力、それを下支えする科学技術の蓄積が大きいのですが、経済の側面からその要因を探ってみると、1820年代に始まる中国の不況(年号を取って「道光不況」)に注目が集まっています。そしてこの不況は国際通貨たる銀の流通事情が大きく関わっていました。そこで本書では、当時の銀の流通実態がどのようなもので、それがなぜ中国経済に負の影響を与えたのか、という点で、視点の異なる論者が意見を戦わせています。


本書の出発点となっているのは、林満紅さんによる研究です(同氏の論考は残念ながら本書には未掲載)。それによると、中国で主に流通していた銀貨の供給元であるメキシコが独立する過程で政情が混乱して銀産出が落ち込み、中国への流入減少によって銀貨が高騰したこと(つまりデフレ)によると結論づけました。
 
ところが、このモデルについては実証面で問題があるとの批判があがりました。本書はその批判を中心に構成しています。
具体的に紹介すると、アレハンドラ・イリゴインさんは、メキシコの銀産出はそれほど減っていないとし、19世紀前半の中国では銀地金よりもスペイン領メキシコで鋳造されていた銀貨カルロス・ドルの方が地金換算で価値が高く流通していたため(つまりプレミアがついていた)、結果としてカルロス・ドルが中国へ流入し、地金の銀が大量に流出した結果、銀不足による高騰によって経済の停滞を招いたとしています。

一方リチャード・フォン・グランさんは、中国の不況はそもそも銀の流出が引き起こしたのではなく、各地で庶民が使用している銅銭の品質低下により価値が暴落し、それが庶民生活の購買力を大きく低下させた影響を重視します。
とまあ見解は三者三様でありまして、本書でも結論を急いでいないのですが、岸本美緒さんがこれらの議論を整理しつつ、実証的なデータを多く提示しながら、それぞれの議論をつなぐ論考を寄せています。(イリゴインさんの説にやや賛同しているように読み取れましたが。)

正しいかどうかはまだ検証が必要でしょうけれども、個人的には、イリゴインさんの指摘が銀流出の要因として考える際に非常に魅力的に映りました。
ほかにも興味深い論点がたくさんあったのですが、あまり長くなるのもなんなので、このへんで。いわゆる「グローバル・ヒストリー」の最前線に触れる機会として、専門外の方々にもチャレンジしてほしいと思います。

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