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見知らぬものと出会う  ファースト・コンタクトの相互行為論--2018 [視座をホモサピエンス]

見知らぬものと出会う  ファースト・コンタクトの相互行為論
著者 木村 大治 [キムラだいじ]  
出版年 2018.9  出版者 東京大学出版会
大きさ 20cm    ページ数 8,253,17p
ISBN 4-13-013152-0
NDC分類(10版) 389.04
新潟県立図書館 収蔵

内容紹介 もしも宇宙人と出会ったら? “未知との遭遇”の多様な思考実験の場であるSF(サイエンス・フィクション)作品を手がかりにファースト・コンタクトを分析し、コミュニケーションの成立条件を明らかにする。
「未知との遭遇」の多様な思考実験の蓄積があるSF(サイエンス・フィクション)作品を渉猟し、著者自身によるフィールドワーク、文化人類学、霊長類学、相互行為論、分析哲学などの知見を縦横無尽に参照して、コミュニケーションの成立条件を考察する。

「宇宙」とはすなわち、いまだわれわれの手の届かない場所のことを指している。しかしそこに、「人」すなわち何らかの意味でわれわれの理解可能な存在がいるというのである。「宇宙・人」を考えるということ自体がまさに、想像できないことを想像しようとする営為なのだ。さらに言えば、よりわれわれに身近なはずの「他者」さえも、同様な構造を持っている。「他・者」とは、私の手の届かない「他」であると同時に、石ころなどの「物(もの)」とは異なる、私と同質の「者(もの)」でもあるのだ。(「プロローグ」より)
著者紹介
木村大治[キムラだいじ]  1960年愛媛県生まれ。京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科教授。理学博士。専門は人類学、コミュニケーション論。著書に「括弧の意味論」「共在感覚」など。


目次
プロローグ 宇宙・人
I 想像できないことを想像する
第1章 宇宙人という表象
1 寓意としての宇宙人
「あいつは宇宙人だ」/哲学と火星人
2 宇宙人表象の歴史的変遷
「人間もどき」たち/歴史上の宇宙人譚/サイエンス・フィクションの誕生/SFと人類学/UFO表象
3 SETIにおける宇宙人
SETIの歴史/ドレイク方程式/SETIと人類学
第2章 投 射――想像できないことを想像するやり方
1 人間というピボット
2 さまざまな引き延ばし
3 窓の向こう側
4 となりの宇宙人
出会い/「宇宙人」という支持点
第一の幕間 双対図式――投射と「枠」

II 見知らぬものと出会う
第3章 コンタクトの二つの顔
1 自然コード
2 関係に規則性をつくる
コンとポン/挨拶と規則性
第4章 「規則性」の性質――不可知性・意外性・面白さ
1 シャノン‐ベイトソンのバラドックス
2 アルゴリズム的複雑性
規則性を測る方法/計算不可能性/規則性をめぐる二つの困難
3 内向きの探索の困難――「別種の説明」がありうる
人類学における「説明」と「実践」/技術やゲームにおける「別種のやり方」/生命現象における「別種のやり方」
4 外向きの探索の困難――「意外な構造」がありうる
行為に対するタグづけ/言語ゲーム/ゲームの面白さ
5 粒度と階層の問題
構成要素の粒度/プログラムとパターンの階層

第5章 規則性のためのリソース――コードなきコミュニケーションへ
1 「リソース」の概念
道具性/「探索」の構え
2 コードというリソース
コードをリソースに還元する/「使い方」としての言語/言語は認識を決定するか?
3 身体というリソース
ベジタリアンの傾斜/宇宙人の類似性/動物と出会う/身体による理解の方法
4 「自分」というリソース

第二の幕間 それでもなお相互行為は可能か

III 枠と投射

第6章 ファースト・コンタクトSFを読む
1 友好系
『最初の接触』/『宇宙(あま)翔けるもの』
2 敵対系
『バーサーカー』/『エンダーのゲーム』
3 わからん系
『ソラリス』/『最悪の接触』/『戦闘妖精・雪風』/半可知な他者

第7章 仲良く喧嘩すること
1 トムとジェリーのパラドックス
2 翻訳の不確定性と寛容の原理
3 会話の格率と関連性の原則
4 「このようにやれ」と「とにかくがんばれ」

第8章 枠・投射・信頼
1 長い投射と短い投射
2 投射を定める枠・枠を探り当てる投射
3 生命と投射

エピローグ 接触に備えたまえ

Encounters with Extra-Terrestrials: Interaction Theory on “First Contact”
Daiji KIMURA

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評・伊藤 亜紗(美学者・東京工業大准教授)
 以前こんなゲームをしたことがある。六人のプレイヤーのうち、二人は目隠し、二人は耳栓をし、残りの二人は口を開いてはいけない。この相互に異なる身体的条件下で「しりとり」をするのだ。身振ぶりや筆談を交えて何とか言葉をつないでいくのだが、途中で困ったことが起こった。プレイヤーの一人がルールを誤解していて、「しりとり」ではなく「伝言ゲーム」を始めてしまったのだ。この異変に気づくのに数分、それを他のメンバー間で共有するのに数分、何度か試みたものの、結局当人に間違いを分からせることはできなかった。

 コミュニケーションというと、ついメッセージの発信者と受信者の間であらかじめルールが共有されており、そのルールに基づいて情報をやりとりするような状況を想定しがちだ。しかし実際には、必ずしもルールは共有されているとは限らない。というか大部分の場合において共有はされていないのであって、お互いにルールをすり合わせることと情報のやりとりが同時進行するのがコミュニケーションである。先のゲームのように、自分には思いもよらないルールに相手が従っているかもしれない可能性は、実際にある。

 本書が分析するのは、そんな「ルールを共有しない他者」の究極たる「宇宙人」とのコミュニケーションである。なんだ、SFか? 確かにSFネタは存分にちりばめられているのだが、著者の専門はあくまで人類学。アフリカの狩猟採集民の村等でフィールドワークを行いながら、コミュニケーションの多様な形態を分析してきた研究者による、宇宙人類学の書だ。ウィトゲンシュタインやベイトソンを用いた規則の成立に関する詳細な分析のほか、「ベジタリアンの傾斜」「規則性の窪くぼみ」など現象を命名する著者独特のセンス(詩的だが数学の定理のようでもある)も楽しい。さあ、接触にそなえたまえ。

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